4番目としては、衰退に伴う爛熟したカルチャーというのが、余り感じられないということです。これは、バブル期の繁栄にしても、その後の多国籍企業やテック関連の繁栄にしても、基本的に日本の富裕層や支配階層が、文化的には極めて貧困であったこと、そのために衰退の段階に入っても、衰退の痛みを繊細で爛熟した非日常の時間空間に表現するというカルチャーが生まれなかったという説明が可能です。
反対に、カルチャー的に活性化された部分は、日本経済が強かった時期であっても、貧しい若者がチャレンジャー的に努力することで成果を挙げてきたわけで、例えば、アニメにしても、JPOPにしても現在の隆盛、そして国際的な尊敬というのは、経済の浮沈とはあまり関係がないようにも思います。
勿論、全体が貧しくなるということは、周り回ってカルチャーにもカネが来ないということになります。ですから、この先の日本のカルチャーに関しては、決して楽観はできません。ですが、アニメにしても音楽にしても、とっくの昔に豊かさというのは前提でなくなっており、危険に満ちた世界において、やや防衛的で受け身的であるものの、緊張感あるドラマを通じて自分たちの「生」を表現するということでは、衰退社会という厳しい環境を、若者たちは創作のエネルギーにしている部分はあるように思われます。
いずれにしても、衰退途上国として、日本が現在どのような速度で、どのような方向へ向かっているのか、少なくともそこには何の前例も、お手本もないのは事実だと思います。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)
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