スピーチのプロが気づいた、物も言葉も「捨てる」という行為が価値を生む事実

 

ことばを捨てる行為

以前、スピーチトレーニングをした、Dさんのお話をしましょう。

Dさんは、ある企業からの依頼を受けて1時間の講演をすることになりました。

企業からのリクエストは、「ぜひ、Dさんのビジネスの実体験を話して欲しい」というものでした。

ビジネスのキャリアを積み重ねてきた経験豊富なDさん。話したいと思う体験談、エピソードは山盛りありました。

そこで、それらを紙に書き出してみた。

すると、A4用紙2枚に、箇条書きで、びっちり。大量のエピソードです。

エピソードはたくさんあるから、講演ネタには困らないわけです。

でも、Dさんはちょっと困った顔になりました。

「いっぱいあるけど、どれを話したらいいだろう?」

以下、Dさんと私(森)のやりとりです。

 「自分が話したいと思うすべてを話したくなるんですが、それは無理ですよね。聞き手が『聞いてよかった!』と感じてもらえる最適なエピソードを3つだけ選んでみてはどうでですか」

D氏 「え、3つだけですか???」

 「はい。聞き手のニーズやシーズに照らし合わせて、3つ。」

D氏 「でも、1時間あるんだし、少なすぎません?」

 「と思いたくなりますが、結構、3つで充分なんですよ。体験談はストーリーになっているので、プレゼンのようなファクト説明とはそこが違うんです。ストーリーは細かな部分を具体的に話すから聞いていて面白い。事実説明ではなく、おしゃべり感覚のスピーチになる感じです。喫茶店なんかで、こんなことがあってね…と友人に話していると、あっという間に時間が経ちませんか。エピソードを離すっていうのは、そういう感覚なんです。1つのエピソードをきちんと伝えようとすると、10分くらいは話せる。3つのエピソードなら、それだけで30分かかります。冒頭の挨拶や自己紹介で10分、エピソード3つで30分。そして、最後のまとめに10分使うとなれば、もうこれで合計50分です。少し時間的余裕をとって考えると、1時間のスピーチ時間でも、エピソード3つで充分聞き応えがあるんですよ」

D氏 「へえ。そうか。でも、面白い話がいっぱいあるんで、一つを短く話して、7つくらい話せないかな?そのほうが内容盛り沢山でウケるんじゃないですかね」

 「そういう考え方法もあると思います。でも、エピソードが7つでも3つでも、本当に狙うべきことは、それらのエピソードから導き出される、1つのメッセージです。つまり、伝えたいことは1つに絞る!エピソードはそのメッセージを言わんがための、具体的なお話、という役割です。3つだと少ないように思えますが、一つ一つを丁寧に話せる。7つもあると、一つづつが薄味になりかねません。すると、聞き手は逆に聞きづかれてしまう可能性もありますね」

D氏 「へえ、そんなもんでしょうか」

 「映画に例えるとわかりやすいですね。1本の映画の中には、複数のエピソードがあります。軸となるメインのストーリーに付随して、サブの物語がいくつか絡み合っています。でも、製作者が伝えたいこと、メッセージは一つだから、結果的には複数の物語も一つの流れに集約され、見終わると、一つのメッセージが伝わっている。複数の物語が展開されながら、それぞれがわかりやすいのは、登場人物が複数いて、視覚と聴覚の両方をリアルに表現できる映画だからこそ、ですよね。スピーチは映画に比べれば、出せる情報量は圧倒的に少ない。そう考えると、聞き手の心に残るエピソードを3つ選ぶことで充分だと思います」

Dさんは、このようにして、膨大な中から、トップ3、珠玉のエピソードを選ばれました。

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