狂気の沙汰。“恩人”白鵬に「誓約書」サインを強要した相撲協会の差別主義

 

星野智幸の言説に共感する

「文壇随一の好角家」と形容される作家の星野智幸は、「サンデー毎日」10月17日号で「ヘイトと戦った第69代横綱・白鵬」を寄稿していて、私は深く共感する。

▼2015年初場所13日目、白鵬が大鵬の大記録を超える33回目の優勝を決めたあの大一番の日。相手は稀勢の里。枡席でドキドキしながら見ていた私のすぐ後ろから声が飛んだ。「日本人力士、がんばれ!」。私の心は凍りつき、次に怒りで沸騰し、気が付いたら「白鵬!」と叫んでいた。

▼一般に、国籍や人種、出自など、生まれながらにして決められていて当人には変えられない属性を持ち出して、個人を論評することは、差別に当たる。その言葉に攻撃性が含まれていれば、違法なヘイトスピーチと認定されることが、法務省のサイトでも示されている。

▼国別対抗ではなく個人技である相撲で、「日本人」という応援の仕方をすることは、差別のニュアンスを帯びる。

▼それでも心折れずに土俵に上がり続け、自分で自分のことを決める権利を手放さない白鵬の姿に、私はどれほど励まされたことか。

▼テニスの大坂なおみ選手やサッカー女子のラピノー選手など、近年はスポーツ選手がはっきり意見を言うのは、権利として認識されるようになっている。白鵬も、そんな最先端のアスリートの1人だと思う……。

その通りで、神事とヤクザ・ビジネスとスポーツの間のどの辺で折り合いをつければいいのかも定かならずに、「伝統文化や相撲道の精神」などと言っている相撲協会は、スポーツ最先端のアスリートたちによって乗り越えられていくのである。

白鵬の「品格」に欠ける行いの1つに、17年九州場所で優勝した時に観客に万歳三唱を呼びかけたことが挙げられる。が、これには経緯があって、13年九州場所の14日目、日本人横綱誕生が掛かっていた稀勢の里と白鵬が対戦し、稀勢の里が勝つと、喜んだ観客から万歳三唱が巻き起こった。これについて後に白鵬は「なんぼ頑張ってもしょせん外国人なのかな」と悲痛な思いを漏らした。先に「品格」に欠ける行いを仕掛けたのは九州の観客で、4年後に同じ場所で優勝を果たした白鵬はそのことにちょっと注意を喚起したかっただけなのである。

「白鵬杯」こども相撲大会

白鵬の相撲界への貢献として特筆されるべきは、2010年に小中学生の相撲大会「白鵬杯」を創設したことだろう。「子どもたちが相撲から離れてしまったら、大変なことになると思った」と言い、当初は日本やモンゴルの小中学生が参加するところから始まったが、昨年の第10回大会ではブラジルやウクライナを含む14カ国・地域、約1,100人が参加するまでに拡大した。

白鵬杯から角界入りした力士もいて、その筆頭は阿武咲。彼は中学時代に第1回大会に出て優勝、それを励みとして阿武松部屋に入門した。20年春場所では白鵬から金星を奪い、これが白鵬が食らった最後の金星となった。白鵬は「しっかりと育った」と感慨を述べ、「大相撲に入門したい人が、白鵬杯から1人でも2人でも増えてくれればいい」とコメントした。

また、12年ごろからは有望な力士を自らスカウトし「内弟子」として入門させて育成してきた。内弟子とは引退後の独立を前提に、現役中に見込んだ入門者を師匠に預かってもらう形で取る弟子のこと。そうして育てたのが前頭の石浦や、しこ名を1字与えた十両の炎鵬であった。

今一度言いますけれども、白鵬以外のどの力士が、相撲の裾野を広げるための活動にこれほどまでに私財とエネルギーを注いだのだろうか。例えば白鵬ヘイトの筆頭である相撲協会の八角親方は、相撲界の未来のために個人としてどれほどの努力を払っているのだろうか。

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