取り返しのつかぬ損失。京都大学・霊長類研究所の「解体」に抱く疑問

 

そこでわかったのが、サルの交尾が秋から冬だけに限られ、春から夏にかけて子供が生まれることや、「リーダー」の存在です。サル社会は階層社会で、リーダーに従い、一緒に群れだって行動する。男性は大人なると群を離れる母系社会。「芋洗い」「毛繕い」など群れには固有な文化がある…etc.etc。

サル社会を持続させているのが、「調和」であり、「棲み分け」でした。そして、「ヒト」もまたサルを自分たちの一員だとみなし、棲み分けることで共存していたのです。

今西博士と教え子たちの徹底的なフィールドワークによって、日本のサル学は世界に認められる学問になった。教え子である伊谷純一郎博士が、フィールドワークを通じ新しい学説を次々と発表し、日本の霊長類研究は世界に認められる「世界最高水準」の地位を確立したのです。

全く分野は違いますが、健康社会学も「人の正体」を考える学問です。

私が専門とするSOC理論も(Sense of Coherence)も、健康社会学の祖であるユダヤ系アメリカ人のアーロン・アントノフスキーが、ナチスの収容所から生還した人たちを徹底的なフィールドワークで観察し、インタビューを繰り返したことで生まれています。

「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」とは、『踊る大捜査線』の有名なセリフですが、学問も同じです。

限られた空間で行われる「実験」だけではなく、自然の中の「実態」を追いかけるからこそわかることがある。

その拠点だった研究所をなくすという選択は、ホントに正しいのでしょうか。

新型コロナウィルス、温暖化、異常気象、超高齢社会…今、私たちは「人」として、何が正しい行いか?人口知能とどうやって共存していくのか?が問われている時代に生きているわけです。

そのためには「人」とは何か?を知り、霊長類に学ぶべきことも多いように思います。

毎日毎日、きちんきちんと続けてこそ、新しいことは生まれます。それを途切れさせないで、と切に願います。

みなさんのご意見、お聞かせください。

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image by: Shutterstock.com

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