プーチンに狙われている「親日国」を救え。いま日本が“できること”は

 

ドイツはその状況に対して、アメリカからの反対と度重なる中止要請にも答えず、ロシアからドイツへの天然ガスパイプライン(Nordstream II)の運用開始に突き進んでいます。ベルリンのエネルギー省曰く、「ロシアの強硬姿勢は看過できず、ウクライナ情勢には大きな懸念を有するが、ドイツ人、および欧州の仲間たちの生存の確保が先決」との判断を下しています。加えて「アメリカは、要求はしても、別に欧州に天然ガスを供給してくれるわけではない」と切り捨てています。

ゆえにNATO内でもロシアに対する反対の強度は異なり、そこにロシアが付け入るスキが生まれています。

しかし、ロシアがここまで強気でいられるのは、本当に天然ガスパイプラインが生み出す地政学リスクだけなのでしょうか?

天然ガスパイプラインの存在は確かにロシアに大きな交渉力(bargaining power)を与えていますが、欧米諸国から対ロ経済制裁の可能性を突き付けられても意に介さず、強気の態度を示せるのは、昨今、強化されている中ロ経済協力をベースにした中国からの経済・外交上のバックアップがあるからでしょう。

欧米との対立と言えば、イランもそうですが、中国はイランと25年間の経済パートナーシップ協定を結ぶことで、イラン産原油を購入する権利を得る代わりに、イランに対して原油販売の収入に加え、数々のインフラ支援、そして外交的なサポートを約束しています。

一帯一路の国々との違いは、原油というカードをイランが持っていることでしょうが、それでもイランからかなり安価で原油を仕入れることが出来ているようです。

中国はロシアに対しても同様の駆け引きをし、国内で高まるエネルギーへの渇望に応えるために、天然ガスの購入を約束すると同時に、トランス・コーカサスの天然パイプライン(確か「シベリアの力」という名前だったような)を敷設して、中露間の結びつきを強化しています。

ここに国家資本主義体制陣営の基礎ができ、欧米サイドの自由経済圏に戦いを挑むことが出来る広い経済圏を築き上げることに繋がっています。

ロシアは旧ソ連解体後、一旦は影響力を失ったと言われてきましたが、プーチン大統領の下、勢力を盛り返し、今ではかつてのソ連領を再構築するかのように振舞い、アメリカがよく軍事的な介入の際に用いるキーワードである「国家安全保障にかかわる問題」と主張して、スタン系の国に介入して取り込みにかかっています。そして旧ソ連の共和国の中でもロシアが特にこだわるのがウクライナとベラルーシです。

プーチン大統領のみならず、ロシア政府の見解としては、ウクライナとベラルーシは不可分の兄弟姉妹であり、運命共同体という位置づけがされています。実際に私が交渉に臨む際にも、この3か国は常に歩調を合わせたスタンスを取ります。

その不可分という位置づけをしてきたウクライナは、ロシアが旧ソ連の跡取りとして復興に勤しんでいる間に欧米からの支援と影響を受けたことで親欧米勢力が育ち、リーダーを決める選挙でも常に親欧米か親ロシアかという問いが掲げられます。

2014年のロシアによるクリミア半島併合以降は、親欧米派が勢力を伸ばし、ここ数年はNATO入りさえ模索する状況です。

プーチン大統領にとって、このウクライナのNATO入りの可能性は、ロシアの国家安全保障上はもちろん、大ロシア帝国の復興に対する野望を邪魔する欧米諸国の企てと理解していることからも、多面的にレッドラインを超えているようです。

ロシアの帝国としてのプライド、中国との親密な関係と後押しの存在、欧州に対して持つ天然ガス供給というステーク、そして国家安全保障上、ロシアは自らの裏庭に乱暴に欧米が手を突っ込んできたという恨み…いろいろな要素が絡み合い、「一歩も退かぬ戦い」を展開しています。

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