なぜに竹中平蔵を?新自由主義否定も「権化」を重用する岸田首相の怪

 

アベノミクスには忖度か?

4.「私は、アベノミクスなどの成果の上に、市場や競争任せにせず、市場の失敗がもたらす外部不経済を是正する仕組みを、成長戦略と分配戦略の両面から、資本主義の中に埋め込み、資本主義がもたらす便益を最大化すべく、新しい資本主義を提唱していきます」(P.96)

アベノミクスに触れているのは、この箇所だけ。これでは、アベノミクスを決して否定せず、むしろその「成果」を引き継ごうとしているらしいことは分かるが、その中身にまで踏み込んで功罪を明らかにし「ここは大事な成果なので引き継いでいく」という具合に説明しないと、何を以て「成果」としているのかが全く不明である。それに、「アベノミクスなど」と、役人が誤魔化しや言い逃れに使う「など」という常套句を挟んでいるのはどういう意味なのか。

本誌は、ご存知の通り、アベノミクスに「功」など何もなく「罪」ばかりを撒き散らした天下の大愚策だという説である。それはそもそもその前提として、この国が世界のどこよりも先に「人口減少社会」に突入し生産年齢人口の減少が始まっていることによる需要の社会構造的な長期減退傾向を、「デフレ」という貨幣現象と錯覚し(藻谷浩介『デフレの正体』参照)、日銀を通じてマネーサプライを爆発的に増やしてインフレ気味に誘導すればたちまち景気が良くなるという頓珍漢な賭けに打って出たことに起因する。本誌はアベノミクスがまだ始まる前、自民党周辺で語られ出した時から、こんな「ブードゥー(お呪い)経済学、成り立つはずがないじゃないか」言い続けてきたが、実際、日銀がいくらマネーサプライを増やしても、増やした分がほぼそのまま日銀内にある各金融機関の「日銀当座預金」に滞留して日銀構内から外へ出て行かないという事態に立ち至った。

No.1,125で詳しく書いたことだが、マネタリーベースはアベノミクスが始まった2013年3月には135兆円だったのに対し、8年間で522兆円も増えて21年8月で約約5倍の657兆円に達した。このマネーは日銀が各金融機関が保有する国債を買い上げその代金を各行の日銀当座預金口座に振り込むという形で供給されるが、世間には資金需要がないので各行はそれを引き出して貸し出しに回す当てがない。それでマネーはそこに滞留し、そのため13年3月にはわずか計47兆円しかなかった各行の日銀当座預金は、8年間に494兆円も増えて542兆円にまで膨れた。単純化して言うと、マネタリーベースの増分が522兆円で、各行が日銀内口座に置いている預金の増分が494兆円ということで、日銀構内でマネーの自家中毒状態が起きているのである。

【関連】“中国も顔負け”な日本のデタラメ経済政策「アベノミクス」が招いた悲惨な結末

安倍を断罪できないのか?

こんな角度からアベノミクス批判をしているのは「インサイダー」だけじゃないのかと不安を覚える方もいるかもしれない。確かに最初はそれに近い状態だったが、ようやく最近になって同じような見方をする人が増えてきて、一例を挙げれば、第一生命経済研究所の主任エコノミスト=藤代宏一は20年9月1日の同所レポートでこう述べている。

▼アベノミクスではおカネの量を増やすべく大胆な金融緩和を実施した。2013年4月に日銀は政策の操作変数を「金利」から「マネタリーベース」に切り替え、長期国債を異次元のペースで買い入れ、市場におカネを供給する政策を開始した。デフレを貨幣現象と捉え、その解決手段として供給したおカネ(貨幣)とはマネタリーベースを意味していたと考えられる。

▼マネタリーベース急増は初期段階において円安・株高の流れを生み出した。ここに疑いの余地はないのだが、一方で肝心のインフレ率や経済成長率との関係は不明確・希薄であった。ゆえに現在も続く「量」の効果を疑問視する声は多い。

▼マネタリーベースが増加しても、需要が乏しければ、おカネは日銀当座預金に滞留(いわゆるブタ積み)してしまいマネーストック増加には繋がらない。これを信用乗数の低下というが、アベノミクスは大半の期間を通じてそのような状態にあった……。

こういう視点からアベノミクスのこの馬鹿げた現実を切開手術的に白日の下に晒し、安倍晋三とその取り巻きどもを断罪することなしには、「新しい資本主義」もへったくれもない。この一点だけを見ても、岸田が口先で言葉を弄んでいるだけであることが分かる。

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