プーチン止められず北方領土も戻らず。安倍外交「やってる感」の末路

2022.03.23
 

コロナ対策であれば、何も憲法を改正しなくても、現行の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいて緊急事態宣言を発令すれば、政府は臨時病院の建設をはじめ、相当に強い対策を取れた。だが、安倍政権は緊急事態宣言の発令に極めて消極的だったし、発令した後も早々に宣言を解除しようと焦りを見せた。政府のコロナ対応で経済活動が止まり、後に補償などの責任を負わされることを恐れたのだ。

現行法さえまともに使いこなせない政権が、仮に憲法を改正しても、それを国民のために有効に使うことなどできるわけがない。彼らの改憲論など、しょせん言葉いじりの「ごっこ遊び」に過ぎないのだ。

ウクライナ情勢における安倍氏の言動にも、これと同様のメンタリティーが感じられる。

7年8カ月も日本のリーダーであり続け、主要国首脳とも親交が深い「はずの」安倍氏が今すべきことは「プーチン氏の暴挙を止めるために持てる政治力をフル活用する」ことだろう。誰もが思いつくのが、政府特使としてロシアを訪れ、プーチン氏に直接停戦を求めることである。実際、3月8日の参院外交防衛委員会で、立憲民主党の羽田次郎氏が「安倍特使案」について質問した。

しかし、林芳正外相は「現時点で特使を派遣する考えはない」と、にべもなく答弁した。そしてその2日後、安倍氏はなぜか、ロシアではなくマレーシアに旅立った。

安倍氏のマレーシア訪問はもともと昨年12月に予定され、コロナ禍で延期されていたという。今この時期に訪問する必然性も緊急性も感じられない。対露関係で自らに注目が集まるのを避けたと言われても仕方がないだろう。

リアルな外交交渉において「安倍・プーチン関係」が何の役にも立たないことは、実のところみんな分かっていた。現実に今、主要国の首脳などから、安倍氏とプーチン氏の関係に期待して、日本に相応の役割を果たしてもらおうなどという期待の声は、全く聞かれない。

ロシアのウクライナ侵攻によって、その現実が可視化されたに過ぎない。

安倍氏は日露関係最大の懸案事項だった北方領土問題で、日本政府が長年積み上げてきた外交方針をひっくり返し「2島返還」を半ば既成事実化させてしまった。安倍氏は領土問題を事実上後退させる「売国的な」(この言葉は好きではないが、あえて使う)外交を行ってしまった。

今や2島返還どころではない。プーチン氏は3月9日、北方領土への外国企業誘致に向け「免税特区」を創設する法律を成立させた。ロシアによる北方領土の実効支配は、さらに強まったと言えるだろう。そして21日。外務省は日本との平和条約締結交渉の中断を発表した。北方領土のビザなし交流は停止され、日本の国会における来年度予算案の審議でもたびたび議論となった北方領土での共同経済活動についても、日本側から見直しを言い出す前にロシア側から撤退を言い渡された。岸田文雄首相は22日の参院予算委員会で「ウクライナ侵攻の責任を日露関係に転嫁するロシアの対応は極めて不当。断じて受け入れられない」と抗議する考えを示したが、「今さら」という言葉しかない。

「プーチンが異常な行動をとったから」で許されることだろうか。こんな事態を生むまでの、安倍政権以降の日本の対露外交を冷静に振り返る必要はないのか。17日の参院予算委員会で、立憲民主党の蓮舫氏が安倍氏の対露外交について「プーチン氏を助長させたのでは」と質問していたが、ここまでの流れを見る限り同感だ。

これが「やってる感外交」の末路なのだ。

print
いま読まれてます

  • プーチン止められず北方領土も戻らず。安倍外交「やってる感」の末路
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け