プーチン止められず北方領土も戻らず。安倍外交「やってる感」の末路

2022.03.23
 

自分の外交力が役に立たないことが露呈するや否や、安倍氏はまた無意味な大風呂敷を広げ始めた。3月3日の自派の会合。安倍氏は、米国の核兵器を日本の領土内に配備して共同で運用する「核共有」について、議論の必要性を強調した。

発言は安全保障政策の文脈で大きな波紋を呼んだが、それはあっさりと火消しされた。国会では岸田文雄首相が「政府として議論することは考えていない」と明言。自民党の安全保障調査会でも積極的な意見は出ず、5月にまとめるという党の提言にも盛り込まれない見通しとなった。

「議論すべき」というから議論はしたが、政府・党ともに採用しないという常識的な結論がさっさと出た。安全保障の観点からの話は「以上、終わり」であり、騒ぐこと自体に意味を感じない。

しかし、これを安倍氏のコロナ対応と関連付けて考えると、なかなか興味深い。要するに安倍氏は「プーチン氏との関係」という最大の売り物のメッキがはげたことから国民の目をそらし、実現不可能に近い「核共有」なる大風呂敷を掲げることで、この非常事態に「やってる感」を演出しようとしただけなのである。コロナ禍で緊急事態宣言をまともに使い倒すことができなかったことから国民の目をそらし、実現不可能に近い憲法改正を持ち出したのと同じように。

安倍氏は前述の派閥会合で「プーチン氏のようなリーダーが選ばれても、他国への侵略ができないようにするのが憲法9条」とつぶやいた共産党の志位和夫委員長のことを「思考停止」と断じていた。だが、本当に思考停止しているのは、おそらく安倍氏の方だろう。

安倍氏がよく使う、この種の一見「勇ましい」言葉が、過去に「現実的な外交・安全保障政策」などと持ち上げられたのは、当時の日本が「平時」だったからだ。だが、東日本大震災やコロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻のような「リアルな非常事態」が現実のものとなった時、こうした「勇ましい言葉を言えば勝ち」のような「政治ごっこ」は何の意味もなさないことが、白日のもとにさらされつつある。

安倍氏のように言葉遊びにふけるだけの政治家こそ、今や本当の「平和ボケ」なのである。

image by: 首相官邸

尾中香尚里

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

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