なぜプーチンはソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と言ったのか

 

今後の動向

ロシアのウクライナ侵攻は、北欧諸国にも影響を与えた。およそ1,300キロメートルに渡り国境を接すフィンランド、そしてスウェーデンが、NATOに加盟する可能性が高まった。

両国は、「所属する陣営を公然と選択」しないことが平和を維持する最善の方法であるとする信条を、数十年にわたり掲げてきた。これを放棄することになる。

第二次世界大戦後、両国ともにロシアと比べ軍事力ははるかに弱小ながらも、「非同盟」の立場を維持してきた。

フィンランドは、1917年にロシアから独立したものの、第二次世界対戦中にソ連と2度交戦、結果、領土の一部を奪われた。戦後、1948年にロシアと友好協力援助条約を締結、この殊により、軍事面においては、西欧諸国から切り離された。

しかし、冷戦の終結と続くソ連の解体によりロシアからの脅威から脱することで、フィンランドは初めてロシアからの影響下を脱する。

フィンランドの平和は、自国の軍事的抑止力とロシア政府による友好関係により守られてきた。だが今回、ロシアがウクライナ侵攻を行ったことで、有効関係は堅持できなくなった。

他方、スウェーデンは過去200年間、戦争をしておらず、平和を保ってきた。戦後の外交政策については、国際的な民主主義の支援、他国間での対話、そして核軍縮の推進を柱としてきた。

冷戦の終結後も、軍事的規模を縮小する。紛争が発生した時には、援軍が到着するまでロシアの侵攻を遅らせることを目指していた。しかし、ウクライナ侵攻を目の当たりにしたことで、新たな軍事的な保障を必要としたのだろう。

ただ、スウェーデン国内においては、左派勢力においてはNATOによる安全保障体制には、まだ懐疑的である。

政治的には、フィンランドとスウェーデンは、1995年の欧州連合(EU)加盟を機会に、公式の中立政策から、軍事的には非同盟へと立場を転換。近年は、ロシアの強権的な態度が強まるなか、両国は情報機関の交流や演習への参加という形でNATOへの接近を徐々にであるが、強めてきた。

もし両国がNATOに加盟することになれば、北大西洋条約「第5条」への対象となる。これは、加盟国1国への攻撃をNATO全体への攻撃とみなす規定だ。

両国の国民の間でも、NATOへの加盟を支持する動きが徐々に広がっている。世論調査によれば、NATO加盟に賛成する声が過半数をわずかに超えた。議会の間も、加盟申請を支持する会派が優位に立っている。

他方、加盟に否定的なのは、スウェーデン社会民主労働党。スウェーデン最大の政党であり、20世紀の大半の時期において政権を担ってきた。しかし、党も加盟支持の方向に舵を切りつつある。ただ、旧共産党であるスウェーデン左翼党と緑の党は、まだ加盟へは否定的だ。

一方、フィンランドの民間放送局が最近実施した世論調査によれば、フィンランドではNATOへの加盟賛成が68%、反対はわずか12%であった。議会的には、左派連合を例外として、フィンランドの国会議員の過半数と大半の政党が、NATO加盟を支持して意いる。

現実的は、フィンランドの方がスウェーデンよりも加盟に近い位置にいる。フィンランドには、「NATOオプション」が存在、これは安全保障環境が悪化した場合に加盟の申請を義務付けるという、行動計画だ。

~おわり~

参考文献

● 池田光史「【超訳】プーチンが目指す、『完全なるロシア』とは」NewsPicks 2022年3月9日
● 佐瀬昌盛『NATO 21世紀からの世界戦略』文藝春秋(文春新書)1999年
● 「情報BOX:フィンランドとスウェーデン、NATO加盟の展望」ロイター 2022年4月15日
● 「NATOの『自分探し』とロシアのウクライナ軍事侵攻の関係」ビデオニュース・ドットコム 2020年3月5日
● 孫崎享「【ウクライナ危機】NATO拡大を止めることが解決の道(1)」JA.com 2022年3月14日
● 孫崎享「【ウクライナ危機】NATO拡大を止めることが解決の道(2)」JA.com 2022年3月15日
● 森原公敏『NATOはどこへゆくか』新日本出版社(新日本新書)2000年

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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