ロシアに握られているドイツの未来。欺瞞だらけの経済制裁に呆れる国民

 

ロシア制裁に関しては、欺瞞が多い。今回のタービンの話もそうだが、ロシア石油を今年の終わりで禁輸にすると決めた欧米は、「中国やインドがロシア産の石油を買い増ししているのはけしからん」などと言っているが、ドイツはもちろん、ヨーロッパはディーゼル車が多いので、ディーゼル燃料が是非とも必要だ。

ところが、現在、ロシアからディーゼル(あるいは、ディーゼルの原料とする石油)を買えなくなったので、それをインドから調達している。つまり、インドはロシアの石油(あるいはすでにディーゼルに加工されたもの)を買い増しし、ヨーロッパの需要を満たしているわけだ。これも制裁回避に他ならない。

そんなわけで現在、ドイツでは、少しでもガスの備蓄を増やすため、貴重なガスを発電に使っては勿体無いということで、ハーベック氏は先月、突然、石炭・褐炭の火力発電所を再稼働させると発表した。そして、7月8日、国会が瞬く間にこれを承認。

褐炭は、石炭よりもさらに多くのC O2を出すが、ドイツでたくさん採れる国産の燃料だ。緑の党はこれまでC O2を毒ガス扱いし、2030年までの石炭火力全廃を天命の如く主張してきたが、今や豹変。石炭・褐炭火力の再稼働は「非常に辛いが必要」で、「C O2は若干増える」とのこと。

1年前、1kWhのガスは約20ユーロだったが、現在、140〜150ユーロになっている。これまでガス不足になると言われても、値上げがまだ請求書に反映されていないかったこともあり、国民の反応は鈍かった。

しかし、今、その能天気なドイツ人に、突然、スイッチが入った。ハーベック氏が深刻な面持ちで、連日、怖いシナリオを語り始めたからだ。氏のアピールは、1に節約、2に節約。自身もシャワーを浴びる時間が短くなったなどと言っている。自治体によっては、ガス供給の時間制限を検討しているところもあるという。

当然、国内では、国民生活を守るため、今年の末に止める予定の原発3基の稼働を延長しろという声が高まっている。

しかし、ドイツ政府にとっては、脱原発の完遂というイデオロギーの方が国民生活よりも重要らしく、聞く耳持たず。暗く寒い部屋で凍えるなどというのは、ドイツの戦時中の映画のシーンのようだが、ハーベック氏はすでに国民に、そうなった時の心の準備をさせようとしているようにも見える。

ドイツ人は元々、節約に関しては筋金入り。おそらくこれから一直線に節ガスモードに入るだろう。ただ、だからと言って、この冬の展望がそれほど明るくなるわけではないというのが、現在、ドイツの抱える問題だ。

7月21日に点検終了予定のノルドストリームだが、その後、本当に動き始めるかどうか、ドイツ政府は固唾を飲んで見守っている。

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プロフィール:川口 マーン 惠美
作家。日本大学芸術学部音楽学科卒業。ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。ドイツ在住。1990年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓、その鋭い批判精神が高く評価される。ベストセラーになった『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』、『住んでみたヨーロッパ9勝1敗で日本の勝ち』(ともに講談社+α新書)をはじめ主な著書に『ドイツの脱原発がよくわかる本』(草思社)、『復興の日本人論』(グッドブックス)、『そして、ドイツは理想を見失った』(角川新書)、『メルケル 仮面の裏側』(PHP新書)など著書多数。新著に『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』 (ワック)がある。

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川口 マーン 惠美

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