遅すぎた対応。統一教会への「解散命令」しか取る道がなくなった岸田内閣の絶体絶命

2022.10.27
 

しかし、一部そういう議員もいたかもしれないが、旧統一教会が自民党の政策決定に影響を与えたという証拠はない。統一教会の関連団体である「勝共連合」は、「ジェンダーフリーや過激な性教育の廃止」「選択的夫婦別姓反対」「男女共同参画社会基本法の撤廃」を政治目標に掲げている。だが、安倍政権以降の自公政権は、これらの政策をまったく採用していない。むしろ、旧統一教会が忌み嫌っているはずの社会民主主義的な政策が次々と実現されてきた。

一部の自民党議員が、旧統一教会の主張する政策を強く訴えたとしても、それはリップサービスの域を出ない。自民党は、旧統一教会を「集票マシーン」としてきただけである。ゆえに、フェアに言って、旧統一教会が「まともな宗教団体」となるならば、政治活動を行うこと自体に問題があるわけではない。

現在、岸田首相が国会で示している宗教法人法に基づく「質問権」の行使という方針は、私が主張してきたことに沿うものだ。だが、残念ながらそれを評価することはできない。

なぜなら、それは「先送りによって国民が問題を忘れるのを待とうとする」いかにも自民党的な古いやり方が失敗した結果、行きついたことであり(つまり、Too Old)、個別の議員に責任を押し付けて、党として責任回避を図ろうとして結果である(つまり、Too Little)。

そして、なにより問題なのは、岸田首相が問題解決に本気で乗り出したことが遅すぎたことだ(つまり、Too Late)。その2か月間の間に、メディアが連日この問題を取り上げて、世論が怒りに沸騰し、内閣支持率が大きく下落した。

この状況では、おそらく旧統一教会に対する「質問権」を行使した時、「霊感商法」等の問題に改善がみられ、まともな宗教団体となったと認め、宗教法人格を継続するという判断をしても、国民は絶対に納得しないだろう。要は、今後岸田内閣が取り得る道は、旧統一教会に対する「解散命令」しかなくなってしまっているのだ。

しかし、繰り返すが、旧統一教会を解散させるというのは、現実的ではない。むしろ、問題をより深刻化させる懸念すらあるのだ。元オウム真理教幹部で、現「ひかりの輪」代表の上祐史浩氏はTV番組にインタビュー出演し、宗教法人に対する解散命令請求についての見解を述べている。

上祐氏は、「宗教法人の解散命令に関しては実際の解散ではないので信者の活動には影響を与えない」とした上で、「信者たちは自分たちが弾圧されていて、悪の社会が悪を深めているみたいな感じになると逆に信仰が悪い意味で深まる」と指摘した。教団の活動がむしろ先鋭化し、「こんなはずじゃなかったという状況になる可能性がある」と警鐘を鳴らした。

私も、上祐氏の見解に概ね同意する。繰り返すが、あくまで「質問権」の行使は、旧統一教会に「まともな宗教団体」になってもらうためであるべきだ。

おそらく、まだ世論が沸騰する前に、岸田首相が党として責任を取る姿勢を示し、「質問権」の行使を決断していれば、解散命令をちらつかせるだけで、旧統一教会の活動を正常化させて、次第に問題を鎮静化させていくことも可能だったかもしれない。

だが、今ではその幕引きでは、誰も納得しないところまで話がこじれてしまった。旧統一教会に対して解散命令を出さなければ、内閣支持率がさらに下落し、内閣が持たなくなる。一方、解散命令を出せば、路頭の迷った教団が先鋭化する。岸田首相は、「進むも地獄、退くも地獄」の状況に陥ってしまったといえる。

image by: 首相官邸

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

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