岸田首相に「既得権の巣窟」の存続を働きかけた黒幕は一体誰か?

 

一昨年10月に閣議決定した「エネルギー基本計画」では原発を「重要なベースロード電源」としながらも、「可能な限り依存度を低減する」としていた。

これを反故にする理由として、岸田首相は、ロシアのウクライナ侵攻にともなうエネルギー価格の高騰や電力需給の逼迫をあげていたが、実のところは、経産省と財界の描いてきた“原発死守シナリオ”に従っているだけである。

とはいえ、この動きを岸田首相が終始、主導してきたとは言い難い。端的に言うなら、岸田首相の政務秘書官をつとめる嶋田隆氏(元経産事務次官)が、岸田首相をその気にさせた首謀者のようなのだ。

嶋田氏は、原発事故後に東京電力取締役に出向した経歴を持つ折り紙つきの原発推進派だ。原発回帰は安倍元首相ですら実現できなかったことから、「岸田政権のレガシーになる」とたきつけ、古巣の経産省と連携して、段取りを整えたとみられる。

来年の通常国会に関連法の改正案が提出されることになっており、成立すれば、民主党政権が描いた「原発ゼロ」への道筋は完全に断たれる、

これにほくそ笑んでいるのは電力会社や原発関連の企業、独立行政法人、そこに天下りルートを持つ経産省など「原子力ムラ」の住人ばかりであろう。

もともと、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会は、原発依存のエネルギー計画を見直すため民主党政権下で編成された有識者会議だ。福島第一原発の事故後、民主党政権は11都市で討論型の意見聴取会を開き、民意をくみ取ったうえで、「2030年代に原発ゼロ」という目標を掲げた。

原発を無くするという政策をどうしても受け入れられない電力会社、経団連は、自民党政権の復活を渇望し、事実その通りになると、自民党への献金を大幅に増やした。

第二次安倍政権下で2013年3月、分科会の性格を大きく変える出来事があった。

当時の茂木敏充経産大臣がこの分科会のメンバーを25人から15人に減らしたのだ。減らした10人のうち7人が、脱原発か、それに近い考えの持ち主だったため、原発推進派が圧倒的多数を占めることになった。安倍政権は、2013年12月のエネルギー基本計画によって、民主党政権が決めた「原発ゼロ」方針を撤回した。

そこから少しずつ原発復活への歩みを進めてきたのだが、岸田政権が一気に大転換へ舵を切ったといえる。

よく知られている通り、電力会社が原発稼働に躍起になるのは「総括原価方式」というシステムがあるからだ。必要経費に利潤を足して電気料金をはじき出す。

利潤の額は、会社の資産額を「レートベース」とし、それに一定の報酬率をかけて決める。原発の建設費が膨大なのは周知のとおりで、それだけ資産額を押し上げる。加えて使用済みを含む備蓄核燃料なども資産として利潤算定のベースとなる。資産が大きいほど利潤が増えるわけだ。

ところが、原発を廃炉にすることが決まると、たちまちそれは巨額の不良資産となり、廃炉にも膨大な費用がかかるため債務超過の恐れさえ出てくる。

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