──人と比べるな、ですか
栗山 「いまでこそ内藤さんのおっしゃるような考え方は珍しくなくなりましたけど、当時の野球界でそういう考えをお持ちの方はほとんどいなかっただけに、僕は本当にそのひと言に救われました。
当然、プロの世界ですから人と競争して生き残っていかなければいけません。でも、他の選手と比べるよりも、まずはきょうよりも明日、明日よりは明後日と、少しずつでも自分自身の野球がうまくなっていけばいいと、内藤さんは言ってくれました。
いま思い返しても、僕くらい落ちこぼれるというのは、珍しいくらいの落ちこぼれでしたけど、そんな僕の可能性を内藤さんは信じてくれた。僕はそれが嬉しかったんです。それに昨日の自分よりも少しでもうまくなれというのならできるはずだと思って、内藤さんに喜んでもらおうとひたすら努力しました」
──いまのお話は栗山監督の選手に対する姿勢にも通じるものがあるように感じました
栗山 「選手を成長させ、輝かせるのが監督の一番の仕事だと僕は思っていますからね。
徳川家康が愛読したとされている『貞観政要』に、こんなことが書かれています。唐王朝の2代皇帝・太宗が治めた貞観の時代、城の門には石段が2段しかなかったといいます。それで守りは大丈夫だったかというと、本当に愛情を持って民に尽くしている王であれば、民が守ってくれるから大丈夫だという話です。
物事を成すには、上に立つ者が人々に尽くさなければならないことを、歴史は証明しているわけで、だからこそ僕も監督として、どうすれば選手にとって一番いいことなのか、ということだけを考え続けてきました。
よくチームのために勝つことと、選手を育てることとは時に相反すると考えられていますが、相反しません。むしろ絶対イコールだと信じてやってきました。その結果、選手たちがキラキラと輝いてプレーしてくれたことで、チームが確実に前に進んでいくことができたのだと思います」
──これまでたくさんの選手を見てこられた中で、伸びる選手と伸びない選手の違いはどこにあるとお考えでしょうか
栗山 「まずは野球が本当に好きかどうか、ということです」
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