3月10日のシリコンバレー銀行に続き12日にはシグネチャー銀行が事実上の破綻に追い込まれるなど、大揺れに揺れる米金融業界。この好ましからざる流れが全米に拡大してしまう可能性はあるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、上記2行の経営破綻が避けられなかった理由を分析するとともに、今後のシナリオを考察。さらに米国経済が抱える数々の不安要素や問題点を取り上げ、それらに対するアメリカ政府の施策を紹介した上で、そこから読み取れるバイデン政権の思惑を解説しています。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2023年3月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
米で銀行が相次ぎ経営破綻。リーマン級の「金融危機」?
3月9日の木曜日、カリフォルニアの中堅地銀であるシリコンバレー銀行(SVB)の株価が突然急落しました。それまでは270ドル前後で安定していた株価は、一気に106ドルまで下がったのです。つまり1日で60%という厳しい下げでした。SVBはエツイ、エアB&Bなど大小様々なテック系のベンチャーを取引先としている普通銀行です。
このSVBに関しては、巨額の資金不足が発生しているという噂が流れ、預金の引き出しが始まりました。SVBが当局に報告した「引き出し額」は1日で42ビリオン、つまり5兆円以上が木曜日1日で「消え」、結果的に現預金のバランスはマイナスになったとされています。
これは大変です。勿論、これは破産法申請ということではないし、デフォルト、つまり債務不履行が起きたわけではありません。ですから正確な意味での「破綻」ではないのですが、もう払い出すキャッシュがないというのは、事実上の破綻を意味します。
警戒を強めた市場は、先週末にかけて神経質な動きをしました。SVBについては、まず金融当局は「FDIC(預金保険機構)」の管理下に起きつつ、休業(close)という措置を取りました。つまり預金の引き出しを含む業務を停止し、株の取引も凍結したのです。その上で「経営を引き受けてくれる」つまり「買収先」を探す動きとなりました。
そこで13日の月曜になって、もしも買収してくれる銀行が見つかれば、預金は全額保全されて金融システム全体への影響はないだろうという楽観論が出ていました。これが、12日の日曜の昼ごろまでの状況で(いずれも現地時間)したが、夕方になって「SVBの財務内容がかなり悪い」という話になり、そう簡単には行かないという雰囲気になっていました。
同時に、これは東海岸になりますが、「シグネチャー銀行(SBNY)」も12日に休業となっています。
こうした状況を受けて、13日の月曜日早朝にはダウ先物がマイナス300ドルというかなり悲観に傾いた状況となっていました。そこへ現地朝8時過ぎにバイデン大統領が緊急会見を行って以下の措置を明らかにしました。
1)SVBとSBNYについて、預金は全額保全。原資はFDIC。したがって公的資金の投入は一銭もなし。金融システムは安泰。
2)株主の救済はなし。自己責任。また、両行の経営陣は罷免されるであろう。
非常にシンプルなメッセージですが、市場はこれを好感して一気に株の先物は上昇しています。では、これで一件落着かと言うと全くそうではなく、今度はサンフランシスコの地銀「ファースト・リパブリック銀行(FRC)」の株が12日1日で61%下げるなど叩き売られています。その他にも2から3の地銀で、株価が大きく下げているケースがあります。こうした銀行の場合は、SVBやNYSBと同様に、預金の流出が起きていると考えられます。
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