今もチラつく安倍氏の“亡霊”。こじれた諫早湾干拓裁判で最も責任が問われる輩

2023.03.17
abeshinzomask2022
 

長らく争われていた諫早湾干拓事業をめぐる訴訟で、「開門無効」を勝ち取った現政権。この判決を識者はどう見るのでしょうか。毎日新聞で政治部副部長などを務めた経験を持つジャーナリストの尾中 香尚里さんは今回、全責任を問われるべきは安倍政権以降の自民政権として、その理由を解説。さらに判決確定後に現役大臣が口にした、国民に泣き寝入りを強いるかのような言葉を強く批判しています。

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

安倍政権以降の自民に全責任。民主主義の根幹揺るがす諫早湾干拓判決

開門するのか、しないのか。国営諫早湾干拓事業をめぐり約20年にわたって続いてきた法廷闘争が今月、事実上決着した。「開門」「非開門」でねじれていた司法判断が、最高裁第3小法廷の決定によって「非開門」に統一されたのだ。「政治が地域を翻弄した」「分断修復に国は責任を持て」。報道ではこのような「一億総ざんげ」的な、安直なまとめの言葉があふれている。

これらのまとめが間違いだとまでは言わない。だが、こういう「みんな悪かったよね」的なまとめは、本来の責任の所在をあいまいにしかねない。一言で「国の責任」「政治の責任」と言ったところで、そこで言う「国」や「政治」とは何なのか、責任を問われるべきは何なのか、そういうことが不明確になってしまうからだ。

だから明確にしておきたい。この問題で最も責任が問われるべきなのは「安倍政権以降の自民党政権が開門に応じなかったこと」の1点だ。

今回の問題は、三権分立が確立しているはずのこの国で、時の行政が司法の確定判決に従わなかったばかりか、その判決の「無効化」を図ったという話だ。そして、結果として最初の確定判決を覆し、政権にとって都合のいい行政を実現させたわけだ。

これは「諫早湾干拓訴訟」という特定の政策課題として語ればすむ問題ではない。安倍政権以降3代にわたる自民党政権の強権的な政治手法は、こんなところにも表れている、という話なのである。

有明海の漁業者が開門を求めて起こした訴訟で、佐賀地裁が国に開門を求める判決を出したのは、自民党の福田政権当時の2008年6月。国は控訴したが、福岡高裁も2010年12月にこの判断を支持した。

ところが、この福岡高裁判決の段階で、政権は自民党から民主党の菅直人政権に移っていた。民主党は野党時代から諫早湾干拓事業を「走り出したら止まらない公共事業」の象徴として批判しており、菅氏は政治判断で上告断念を表明。開門を求める判決は、ここで「確定した」。

諫早湾干拓をめぐる問題の混迷について、菅氏の上告断念に責任を求める向きが、たまにある。「最高裁の判断を仰がなかったのはけしからん」というわけだ。

これはおかしい。司法判断をどの段階で受け入れるかについて、この時の手続きに瑕疵はない。自民党政権も、ハンセン病患者の隔離政策をめぐる訴訟で、当時の小泉純一郎首相や安倍晋三首相が地裁判決を受け入れて控訴を断念し、判決を確定させたことがあった。自民党政権の好きな言葉を使うなら「そのご批判はあたらない」だろう。

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