中国がスーダンへ特使派遣の情報も。内戦の仲介に乗り出す習近平の目論見

 

「パートナーたち」の残虐なお家騒動に絶句の米国

ところで、どうしてアメリカにとってスーダンがそこまで大事なのでしょうか?

先ほどお話しした情報拠点、特にブッシュ政権以降、アメリカが20年以上展開しているGlobal War on Terrorにおいて、隣国エチオピアと共に中東地域と北東アフリカ地域をカバーするという立ち位置に加えて、ここ20年ほどで一気に色濃くなった隣国エチオピアとジブチへの中国とロシアの影響力の伸長を受け、東アフリカ地域(Horn of Africa)はもちろん、スーダン以西のアフリカにおけるアメリカの影響力を維持するための最前線となっているのがスーダンです。

何度もシニアレベルの特使を派遣し、国内情勢の安定に寄与し、また地域安全保障への目配りもするほど、アメリカ政府はスーダンを重要視してきましたが、今回は“パートナーたち”の残虐なお家騒動を前に絶句し、対応に苦慮しています。

例えば外国人の国外退避を可能にするために、サウジアラビア王国と共に行った仲介は、72時間という時間稼ぎを実現したものの、先述のように、戦闘が止むことはなく、“停戦期間中”も次々と生命が奪われていく状況に無力感を感じているとのことでした。

また調停チームの面々曰く、アメリカとサウジアラビア王国の連携もうまく行っておらず、それがスーダン国軍とRSF双方からの信頼不足にもつながっているとのことですが、現時点で他の誰も調停の労を担おうとは思わないようです。

エチオピア情勢がティグレイ紛争で緊迫化した際、以前よりアフリカ連合(AU)が目指してきた地域による紛争調停も、今回は完全に不発で、懸念は表明するものの、地域外の国々の勢力争いの具にされることを極めて警戒しており、こちらも日和見ではなく、調停プロセスを妨害するような動きも見せています。

その顕著な例が、スーダン紛争についての対応を協議するために緊急招集された安保理会合で、今年アフリカを代表するガーナの大使が、他の2か国のアフリカグループからの非常任理事国と共に、名指しこそ避けたものの、アメリカや欧州、そして中国、ロシアなど“大国”の介入を一切拒否するという発言をし、国際的な惨劇を目の当たりにしても相互不信から結集できない現状が浮き彫りになっています。

その背景には、かねてより欧米諸国が支援をテコに人権問題や選挙制度などへの内政干渉を行ってきたという過去の記憶があり、かつエチオピア情勢で浮き彫りになったエジプト・スーダン・エチオピア間の対立とそれに巻き込まれたくないケニアやタンザニアなどの地域大国、そして東アフリカの政情不安が西アフリカに波及することを嫌うガーナなどの西アフリカ諸国に存在する激しい不信と緊張が見えてきます。

そこに“条件”を付けることなく、Business is businessと経済や通商に的を絞り、インフラ事業を集中的に行うことで地域における影響力を強化している中国の存在、そして同じ国々の軍事面の支援を行うロシア、そしてエネルギー安全保障に寄与するイランというタッグが出来ており、じわじわとアフリカ諸国の支持へとつながってきています。

先のガーナの大使の発言は、実際には安保理会合で中ロが介入、特にアメリカによる仲裁を拒否する旨を発言した後に出たもので、今回のスーダン情勢においても、すでに世界の分断がより鮮明になってきていると見ることが出来ると考えます。

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