日韓との違いは明確。アメリカの“駒”になどならない中東諸国の姿勢

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アメリカのブリンケン国務長官がバイデン政権としては初めて北京を訪問する見通しとのニュースが大きな話題となりました。しかし、当の中国側の反応は静かなものだったと伝えるのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、その理由として、中国を「価値観の共有できない国」とすべく“宣伝工作”を続けるアメリカに対して拭えない不信感があると指摘。しかし“工作”の効果は限定的で、サウジアラビアを筆頭に中東諸国が中国との関係を深め、アメリカに加担しない姿勢を示していることに注目しています。

少し陰りが見えた中国の貿易統計にも顕著な中国の新興国・発展途上国シフト

今週は、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官の訪中が大きな話題となった。しかし、当の北京は思いのほか静かだ。先進7カ国(G7)広島サミットでジョー・バイデン米大統領が、「(中国との)雪解けは近い」と発言したときも同じように反応は鈍かった。

根底には中国外交部報道官が「言行不一致」と繰り返すアメリカへの不信がある。事実、中国のイメージを悪化させるためと思われる動きは、アメリカやその同盟国の間で一向に止む気配はない。

今月8日には米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』が「キューバに中国がスパイ施設を設置しようとしている」と報じてワシントン周辺が騒がしくなった。疑惑は間もなく、ジョン・カービー米国家安全保障会議戦略広報調整官によって「正確ではない」と否定されたものの中国は反論に追われた。

中国が世界各国に持つとされた「秘密警察署」の疑惑もそうだ。人権団体が「秘密警察署」と指摘したことで英警察が調査を断行。最終的には「中国政府による違法行為は確認されなかった」(トゥゲンハット安全保障担当相)との結論が導き出された。

いずれのケースも最後は「白」と判断されたが、騒ぎが拡大するなかで中国のイメージが大きく損なわれたのは言うまでもない。一旦独り歩きした情報の否定は容易ではなく、中国を「価値観の共有できない国」とするのには十分な効果があったと考えられた。

宣伝工作において欧米側に一日の長があることを思い知ら去られるエピソードだが、一方で情報コントロールを国家権力が一手に担う中国の「弱さ」も露呈した。

もっとも国際世論戦でソフトパワー不足のため劣勢に立たされる中国も、国際社会で自らの生存空間を広げるという競争では、確実に得点を重ねているようにも見える。

例えば、ブリンケン国務長官のサウジアラビア訪問(6月6日から8日)である。筆者はもちろん中国とサウジアラビアの接近が直ちに中東地域におけるアメリカのプレゼンスの大幅な低下を意味しないことは承知している。安全保障の視点で見ればアメリカの存在感が相変わらず巨大である。

ただ一方、中国がサウジアラビアとイランの仲裁をやってのけた事実も、過小評価してよい話ではない。中東に吹く風は確実に変っているからだ。

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