相次ぐ米高官の訪中も“時間稼ぎ”か。エスカレートする米中制裁レース

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6月のブリンケン米国務長官の訪中以降、米高官の訪中のニュースが続いています。米中ともに「最悪」の事態を避けようとしているのは確かでも、米国内の「アンチ中国」の気配は強まるばかりのようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂教授が、米軍内のスーパーマーケットで中国製のものを禁止する議論があると紹介。こうした現状認識の甘さのまま同盟国・パートナー国を巻き込み、中国を追い込むことの危うさを伝えています。

米中半導体戦争を仕掛けるバイデン政権に米半導体業界も困惑という不思議

アントニー・ブリンケン米国務長官の訪中を機に、アメリカ高官の中国訪問ラッシュが続いている。7月上旬にはジャネット・イエレン米財務長官が北京に降り立ち、ジョン・ケリー米大統領特使(気候変動問題担当)がこれに続いた。

次に予定されているのはジーナ・レモンド米商務長官である。この流れを見ていると、あたかも米中関係は、一時の「酷寒」から抜け出し、改善へと向かい始めたようにも思われる。ブリンケン訪中の約1カ月前には、米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官が極秘裏に中国を訪れていたことが報じられた。

しかし、問題はそれほど単純ではない。確かに米中ともに「最悪」を避けようと努力していることは伝わってくる。しかし、バイデン政権が求めているのは「改善」とは限らない。少なくとも中国はそう受け止めている。

事実、高官の相次ぐ訪中の裏で、アメリカは相変わらず厳しい中国封じ込めともとれる動きを止めていない。アンチ中国の気配も強まるばかりだ。7月21日、ピート・ブティジェッジ運輸長官は自動運転技術をめぐって「安全保障上の懸念がある」と発言(ロイター通信)。米中対立の戦線が今後、半導体の枠を超えてさらに広がることを予感させた。

またこれと同じタイミングで米『ミリタリー・タイムス』は24会計年度の国防権限法をめぐり、議会が「軍内のスーパーマーケットや商店でメイド・イン・チャイナの商品や中国からの輸入品、中国で組み立てられた商品を禁止することを話し合っている」と伝えている。

記事は中国製品排除の有効性よりも、その非現実性に焦点を当てた内容だったが、議会がこうしたやり方を大真面目に議論していること自体、現状認識の甘さと非理性的な考えを持っていることの証左だ。

思い出されるのは、かつての靖国神社だ。靖国神社はもともと外国製品を敷地内の売店に置かないことをルールとしていた。しかしお茶のペットボトルがすべて中国製になってしまったことからルールは崩壊。最終的には店で売られる商品のほとんどがメイド・イン・チャイナとなってしまったのだ。

もし米軍内のマーケットから中国で組み立てられた製品を本気で排除すれば、軍人はiPhoneを手に入れることさえ困難になるはずだ。感情に支配された議会やワシントンの選択は明らかに自縄自縛の様相を呈しているが、それでも対中攻勢は止まらない。

7月28日にはジョー・バイデン大統領自身が重要な先端技術に関し対中投資を抑制する新たな措置を準備していると米ブルームバーグが報じた。米高官を笑顔で迎え、握手をして合意を得ても中国への攻撃の手は緩められない。まさに中国側が「言行不一致」と批判するバイデン政権の特徴だ。

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