プーチンとコロナが開けた「パンドラの箱」。高まる核ミサイル攻撃の懸念

 

「プーチン後」のロシアで高まる核兵器使用の可能性

核兵器が持つ役割を、よく私たちは核抑止力と言い換えることがあります。

核抑止力には様々な定義が存在していますが、私は「核兵器は相互不信と互いに対する恐怖に根付いた感情が生み出した兵器であり、相互に対する恐怖が存在する限り、核を保有する相手に対する攻撃を思いとどまる要素」と考えています。

ゆえに今年8月6日と9日に語られた「核抑止の理論の破綻」は、残念ながら起きていないと感じ、悲しいことに核抑止はまだ健在だと思われます。

ところでロシアは核兵器を持っているからウクライナに侵略したのでしょうか?

いろいろと分析をしてみると、ロシアがウクライナに侵攻する理由には、核兵器の存在はあまり重視されていないことが分かります。それよりは地政学的な側面が強く、緊張関係が高まる隣国が自国に次ぐ軍事力を保有するという事実に対する恐怖感と、歴史的にウクライナを自国の一部とみなし続けてきた現実から行われた侵略であり、話題に核兵器が出てきても、実際に核兵器のウクライナに対する使用は起こりえないと見ています。

例外があるとしたら、ウクライナ軍とその背後にいるNATO軍がロシア領内に攻撃を拡げた場合、その戦力を殲滅するために使用するという恐ろしい状況かと思いますが、そこはNATOもかなり慎重で、事あるごとにウクライナにも釘を刺しています。

しかし、最近、ウクライナ国内におけるゼレンスキー大統領への支持が揺らいでおり、遅々として進まない反転攻勢への苛立ちと、自国の命運をアメリカや欧州各国に握られている実情に反感を持つナショナリスト勢力の台頭が明らかになってきており、その勢力が、ゼレンスキー大統領の知らないところで、ロシアに対するロシア領内での攻撃を加速させ、ロシア側のレッドラインを超えるというシナリオがだんだん妄想ではなくなってきました。

ロシア軍はまだ余力を残していると言われているので、即時に核の使用に踏み切ることはないと考えますが、仮にプーチン大統領の神通力が弱まったり、プーチン大統領が排除されたりした場合、起きうるのは、和平を望む穏健派の台頭ではなく、プーチン大統領以上に過激なリーダーが指揮を執り、プーチン大統領が思いとどまった核兵器の使用に踏み切ることにつながる可能性が高まる事態です。

今、世界は非常にデリケートで脆弱な基盤の上で、かろうじて和平と安定を保っているように見えます。

そのバランスが崩れた時、核保有国はガードを固めつつ、核兵器をanytime readyの状態に置き、非保有国は核武装に走るか、戦いのリングから完全に下りるかの選択を行い、いつ破滅を迎えてもいい状況に陥る可能性が一気に高まることになります。

よく私たちは「人は理性的に動く」と考えがちですが、行動経済学・行動心理学で見てきたように、私たちは自分でも理解できないチョイスをし、行動を取ることが多々あります。

つまり「人は理性的には行動しない」ということが出来、偶発的に起こるショックに対するリアクションを、自身で予測することができません。

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