習近平のG20欠席と「新たな世界地図」が加速させる中国批判
一方、習近平が危機に直面するのは国内だけではない。外交の世界でも阻害され、これまで中国と仲が良かった国々から信頼を損ねている。たとえば、インドで9月上旬にG20サミットが開催されたなか、習近平はそれを欠席した。これについて中国政府も正式な理由を発表していない。習氏はこれまで中国の存在感を国際社会に強く示すため、このG20の場を重視してきた。これについて、ホスト国のインドは中国への不満を示した。インドは中国同様、ウクライナに侵攻したロシアを直接批判することは避け、侵攻後もエネルギー分野などでロシアとの関係を維持してきたが、中国にとって対欧米を進めるにあたりインドの立ち位置は重要だったはずだ、しかし、説明なく習氏がG20を欠席したことで、インドの対中不満は強まっている。
また、最近中国は新たな世界地図を公表したが、これが物議を醸し出している。その地図では南シナ海のほぼ全域が中国の領海として記され、中国が南シナ海の領有権問題に関して一方的に主張する九段線がそのまま描かれている。西沙諸島や南沙諸島で中国と領有権を争うフィリピンやベトナムなど東南アジアの国々は早速反発し、9月に開催されたASEANの会議でも中国への不快感を露にした。そして、これについては中国とインドが争うヒマラヤの係争地でもそれが中国領土として描かれ、インドも強く反発している。
習近平への不満を募らすプーチンと金正恩
そして、北朝鮮やロシアというこれまで中国との関係を重視してきた国々も習氏への不満を抱いているようだ。9月、北朝鮮の金正恩氏が鉄道でロシア極東を訪問し、プーチン大統領と会談した。この会談で、北朝鮮はロシアから食糧支援や宇宙開発で協力を得ること、ロシアは北朝鮮から軍事支援を受けることがそれぞれ合意された。
北朝鮮が食糧支援がほしいのも、ウクライナ戦争で疲弊するロシアが軍事支援がほしいのも当然のことだが、両国には中国への不満がある。ウクライナ戦争により、政治的にも経済的にも軍事的にも苦しむロシアとしては、中国から明確に支持するとの声、積極的な軍事支援がほしいはずだ。しかし、習政権はそれについては積極的に動かず、そこに中露間で距離感が生じている。
また、対北朝鮮で韓国が日米との関係を重視する中、金正恩氏としては中国の支持がほしいのが本音だが、ここでも中国は北朝鮮に積極的な支援を送っておらず、北朝鮮の対中不満も大きくなっている。両国の対中不満が積もる中、今回北朝鮮とロシアが接近し、9月の会談に至ったのである。
欧米や日本、韓国の経済安全保障上の対中警戒論が強まるなか、習氏は国内だけでなく、国際社会でむしろ味方にしたかった国々との関係が冷え込み、孤立し始めている。習氏は対欧米で、ロシアや北朝鮮、インドなどグローバルサウスとの関係を重視しなければならないのだが、今日の国際情勢はむしろ習近平の孤立化に向かっている。
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