単なる「言葉の置き換え」ではない。英詩を日本語詩にする作業のこと

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2014年に母国の総理大臣文学賞を受賞したオーストラリアの詩人、メリンダ・スミスさんが来日し、英語の詩を日本語の詩に訳すというワークショップが各地で開催されていたそうです。その様子を紹介するのは、メリンダさんの友人でメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』著者の引地達也さん。単なる言葉の置き換えではない詩の翻訳という作業には、詩を深く理解する必要があり、ケアの感覚も垣間見られて大きな刺激を受けたと語ります。そして、メリンダさんには社会課題に向き合う作品も多く、人の尊厳を守ろうとする強さと優しさがあると伝えています。

心震える英詩と、創造する真摯な日本語の協力と勇気

オーストラリアの詩人、メリンダ・スミスさんが来日し日本各地でワークショップを開催している。

東京の早稲田大でのワークショップ開催後に行われた「トーク&リーディング 詩の共訳~コラボレーティブ・アートとしての試み~」では、メリンダさんの詩を萩原朔太郎賞受賞の詩人、川口晴美さんが日本語に訳したものを朗読し、メリンダさんが川口さんの作品を英語に訳したものを朗読した。

もちろん、ここで詩の言葉を「訳する」ことは、単なる言語の置き換えではなく、その言葉の背景や成り立ちなどを詩人が解釈し、新しい言葉を紡ぎだし、創出する作業である。

これを「コラボレーティブ・アート」と呼ぶが、それは人の感性が触れ合おうとする創造的な行為であり、その過程には人を思いやる、ケアの感覚も垣間見られて、見ているだけでもわくわくする瞬間の連続だ。私の中では、要支援者に向けた学びの中にどのように取り入れられるかの想像も働き始める。

ワークショップのコーディネーターである滋賀大の菊地利奈教授は、英語と日本語という他言語存在を超え、ここでは「詩が共通言語になっている」と評した。お互いに影響し合いながら、詩が出来上がることは、その人と深くつながることでもある。川口さんは2017年のキャンベラ詩祭に参加しメリンダさんと初対面したが、その前からメリンダさんとは「深くつながりがあるような気がした」と言う。

メリンダさんの詩は時には社会課題に向き合うものもあり、その向き合う姿勢は日本の詩人に「おそれる必要はない。挑戦すればよい」(菊地教授)とのメッセージを与えているようだ。

メリンダさんは私の学生時代以来の友人であるが、気遣いをし、控えめな彼女が社会への挑戦を鼓舞するような存在になるとは思いもしなかったが、彼女自身は「いつも表面の自分とは別に内面で言葉を考えている自分がいた」と最近になって告白してくれた。挑戦、と書くと勇ましい言葉が詩に登場しそうな印象を与えているが、彼女の詩は日常を静かに、そして時には可笑しみを湛えて展開される。

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