日本で報じられぬプーチンの「北方領土」観光地化。年間9万人近いロシア人が押し寄せている現状

2023.11.30
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ロシアによる不法占拠が続く北方領土。そんな我が国固有の領土の「返還」は、叶わぬ夢に終わりそうです。安全保障や危機管理に詳しいアッズーリさんは今回、北方領土支配の既成事実化を進めるロシア政府のさまざまな手口を紹介。さらにこの先、「北方領土はロシア領」とする国際的意見が広がる可能性を懸念しています。

ウクライナ戦争からもうすぐ2年。これまでになく遠くなる北方領土

筆者はこの秋、仕事仲間の誘いを受け、根室と知床半島を訪問した。特に、知床半島の羅臼側からは北方四島で最も人口が多い国後島が目の前に映る。北海道側から国後島まで最も短いところだと16キロほどしかなく、船ですぐに行けるところだ。しかし、そこには“超えられない分断”があり、以前に筆者が知床半島を訪れた時よりも、その分断は明らかに大きくなっているように感じた。

来年2月で、ロシアがウクライナに侵攻してから2年となる。侵攻直後から、日本はロシアの侵略を強く非難し、欧米と足並みを揃える形で経済制裁を強化し、日露関係は冷戦後最悪なレベルにまで冷え込むこととなった。ロシアに進出していた日本企業も相次いでロシア市場から撤退し、その冷え込みは2年が経つ今日でも続いている。そして、それによって日本外交の悲願である北方領土の返還は夢のまた夢となり、ウクライナ侵攻によって最短16キロほどの間を大きな壁が遮ることとなった。米国や中国、ロシアなど大国間対立が激化する中、北方領土は民主主義と権威主義の最前線にあると言えよう。

北方領土は地理的には北海道の目の前に位置しているが、政治的には日本にとってこれまでになく遠いものになっている。そして、プーチン大統領はそれを利用する形で、北方領土の経済的、軍事的な既成事実化を積み重ねている。

国民の北方領土訪問を促進し「ロシア化」押し進めるプーチン

最近、モスクワなどではシベリアやロシア極東の観光や自然をアピールする催しが積極的に開かれている。ウクライナ侵攻により、欧米諸国を中心にロシアへの経済制裁が強化されるなか、海外旅行するロシア人の数は大きく減少傾向にあるが、プーチン大統領はそれを上手く利用した。すなわち、海外旅行は難しいが国内旅行はどうですか?と国民にロシア極東地域の国内旅行を強く推奨し、その中で国民の北方領土訪問を促進し、北方領土のロシア化をいっそう押し進めているのだ。

たとえば、ロシア観光当局は国後島や択捉島の温泉や海岸、山々の魅力を積極的にアピールし、北方領土とサハリンを結ぶフライトを増便するなどし、現地を訪れるロシア人の数は近年増加傾向にある。国後島や択捉島には豪華なホテルや温泉施設も建設されるなど観光化が進み、2021年には8万3,000人、去年には8万8,000人あまりのロシア人が北方領土を訪問し、今後も増加するとみられる。

また、今後は中国との共闘関係も利用し、北方領土の開拓をいっそう強化すべく、中国企業を積極的に誘致し、中国人の北方領土観光も現実味を帯びてくる可能性があろう。

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