司馬遼太郎ブームや田中角栄批判に苦言。ユニークな経営者・新井喜美夫氏の金言至言

Details with the hands of a man in a suit (businessman, CEO, politician) holding a speech in a microphoneDetails with the hands of a man in a suit (businessman, CEO, politician) holding a speech in a microphone
 

いかに儲け、どれだけ株主に還元するかを第一に考える経営者が多いこの国にも、働く人のことを第一に考える経営者は少数ながらいるようです。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』で、評論家の佐高信さんは、東急エージェンシーの社長を務め『「日本」を捨てろ』などの書籍を残した新井喜美夫氏の経営哲学を表すいくつかの言葉を紹介。司馬遼太郎ブームや田中角栄を否定する風潮を評し、日本人の奥底にある危険な意識に警鐘を鳴らした言葉も合わせて紹介しています。

新井喜美夫の『「日本」を捨てろ』

『「日本」を捨てろ』(講談社)などという物騒な題名の本を出す新井喜美夫はユニークな経営者だった。この本の推薦人が本多宗一郎。亡くなってしまったが、生きていれば城山三郎と同じ97歳である。

東急エージェンシーの社長だった新井と私は『週刊ポスト』の1994年9月16日号で対談した。リストラをやるのが経営者の役目などと錯覚している凡百の社長と違って、新井はこう言っていた。

「企業が雇用の機会を提供することは、社会的責任を果たす上での第一義です。よく、人が余っている、という言い方をしますけど、その人の分だけ仕事が足りないんだ、だからその仕事をつくるのが経営者の役目だ、と僕は思う」

それを聞いて、私が、「そういう経営者は少ない」と言うと、新井は、「僕はそれが普通だと思っていたら、社長になったら、変わったことを言う、と思われたようです」と答えていた。

その新井でさらに感心したのは「政治と宗教だけは、社の仕事として手がけてはならない」と社員たちに釘を刺していたということ。新井の前の社長の前野徹の時には深入りしていた自民党の仕事さえ断ったのである。

『産経新聞』に連載したコラムでは、『産経』出身の作家、司馬遼太郎について、次のようにも言っている。「まさに国をあげての司馬ブームであるが、その発生の根源は、本来、極東に位置する日本を中央におき、しかも21世紀になったというのに、依然としてムラ意識の抜けきらぬ内向きでプライドだけは高い日本人たちを、結果から見て、巧みにくすぐることに成功したためではないかとも考えられる」と指摘し、「一般には『司馬史観』などと言って礼讃するものもあるが、これを手放しで支持するのはいかがなものか」と待ったをかけている。

また、日中国交回復の井戸を掘った田中角栄について、ロッキード事件に象徴されるその金権ぶりは批判しつつ、東条英機と比較して、こう書いているのも合点がいく。

「現在の日本では、同じ首相でありながら、経済力において、750倍ものアメリカを相手に無謀な戦争を惹起し、日本国民だけで310万人もの生命を奪った東条首相を是とし、その侵略の対象となった中国との間に国交を正常化し、不公平ながら国民全体に多大の富をもたらした田中角栄を否定する風潮が次第に高まりつつあるやに思えるが、本末転倒もはなはだしい」

1978年10月22日、中国の実力者のトウ小平が初めて日本を訪れ、「水を飲む時には、その井戸を掘った人のことを忘れてはならない」として、真っ先に田中角栄宅を訪問した。

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