小泉悠氏が懸念、西側の軍事援助増強でプーチンが失う「自己制御」

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予想を遥かに超えるウクライナ軍の抗戦に、大きな人的被害を受けたとされるロシア軍。首都キーウ攻略に失敗し周辺から撤退した彼らの動向に注目が集まる中、西側諸国はウクライナに対する軍事援助増強を決定するなど、ロシアに対する圧力をさらに強めています。この動きにプーチン大統領はどのような反応を見せるのでしょうか。今回のメルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』ではロシアの軍事・安全保障政策が専門の軍事評論家・小泉悠さんが、論点を3つに絞りロシアの出方を予想。「デモンストレーション的な限定核使用」も否定できないとの見立てを記しています。

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※ 本記事は有料メルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』2022年4月4日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール小泉悠こいずみゆう
千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。外務省国際情報統括官組織で専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所特別研究員などを務めたのち、現在は東京大学先端科学技術研究センター特任助教。

キエフを守り切ったウクライナとロシアの出方

キエフ周辺から消えたロシア軍

この一週間で、ウクライナをめぐる戦況に重大な変化があったことは既に広く報じられているとおりです。

都合4回目となる対面での停戦交渉(於トルコ)後、ロシア国防省のフォミン国防次官が「作戦の第一段階は完了したのでキーウとチェルニヒウ周辺での軍事作戦を大幅に縮小する」と発表したのが3月29日のこと。

ロシア軍「キエフ近郊の活動縮小へ」、ウクライナは安保体制提案

この直後からロシア軍は実際に一定の兵力をベラルーシやロシア本土に向けて後退させ始め、ウクライナ軍もキーウ周辺で反攻を開始してかなりの領域を奪還しました(例えば米戦争研究所(ISW)の3月31日の戦況アップデートを参照されたい)。

RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, MARCH 31

4月に入ってからもこの動きは続いており、4月2日までにウクライナ軍はキーウの東西でさらに反攻を行なってロシア軍をより遠くへ押し戻すことに成功したようです。

RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, APRIL 2

特に著しいのが西部での状況で、ウクライナ軍はイルピン、ブチャ、ホストメリ空港などを奪還したとされています。これを受けて同日、ウクライナのマリャル国防次官は「キーウ周辺の全域が解放された」と宣言しました。

首都周辺の全域「侵略者から解放」、ゼレンスキー氏は「ロシアによる東部占領」警告

ホストメリ空港からロシア軍が撤退したことは衛星画像でも確認されています。

ロシア軍、キエフ近郊アントノフ空港から撤退 新たな衛星画像で確認

 さらに4月3日のISWのアップデートでは、もはやキエフ西部からはロシア軍の支配領域が消え、北部および東部でもロシア軍は急速に後退中とされています。

RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, APRIL 3

まとめると、ロシア軍は今回、キーウ攻略に失敗した可能性が非常に高いということです。西側からの軍事援助に支えられたとはいえ、ウクライナ軍がこれだけの持久力を発揮してロシアの首都攻略を撃退するというシナリオは(少なくとも私には)全くの予想外であり、その実力を大きく見誤っていたと結論せざるを得ないでしょう。

なお、ウクライナがこれだけ善戦できた理由については、暫定的な考察を第167号「ウクライナ軍は何故善戦できているのか」で行なっているので、こちらも参照してみてください。

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