消えてゆく「仕事の匂い」。最古の総合週刊誌『週刊朝日』休刊に思う“汗と涙の喪失”

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パソコンやスマホの普及により、公私問わず手で文章を書くことから遠ざかってしまった現代人。しかし、利便さと引き換えに失ってしまったものはないと言い切れるのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、5月30日発売号で休刊となった『週刊朝日』に思いを馳せつつ、「手で書くこと」の有用性を解説。人類が生き残る過程で身につけた「書く」という作業を手放すことに対して、大きな疑問を呈しています。

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

幕を閉じた日本最古の総合週刊誌『週刊朝日』、汗と涙が“匂う”働き方とは

大正11年、1922年の創刊で「日本最古の総合週刊誌」と称される週刊朝日が、101年の歴史の幕をとじました。

数年前(少なくとも5年以上前)、某週刊誌の編集者から「週刊誌の購読者の平均年齢は70歳」と聞き驚いたことがありましたが、情報はネットで、しかもタダの時代です。“時代の変化”といえばそれまでですが、なかなか感慨深いです。

そういえば、電車のあみだなに、週刊誌やスポーツ新聞が“ポン”と無造作に置かれた風景もなくなりました。電車の中で、4つ折りにした新聞を読むおじさんもいなくなりましたし、飛行機には週刊誌や新聞が搭載されなくなりましたし(一部のクラスには搭載あり)、悲しいかな本屋さんも街から消えつつあります。

「手で書く」は「キーボードを打つ」になり、AIが文章まで考え書きだしてくれる時代になり、知識は情報になり下がりました。リスキリングだの学び直しだのめったやたらに言いますけど、そんなことしなくても「自分の手で書くだけ」で、学びは尽きなかった。

週刊朝日最終号の校了間際の編集部の様子が、NHKの朝のニュースに映しだされていたのですが、なんかプンプン匂うんです。当然エアコンは効いてるだろうし、当然喫煙でしょうから、汗やらタバコの匂いなどするわけないのに編集部の人たちが、腕まくり姿で、原稿に“赤”を入れてる様子を見てるだけで「仕事の匂い」を感じるのです。

ああ、ここには働いてる人の汗と涙がある。「読者」の顔を思い浮かべながら言葉を紡いでいるひとたちがいる。…そんな仕事の匂いが、空気が、今の社会からどんどんと消えていってるように感じるのです。

個人的な話になりますが、CAをやめて、民間の気象会社に入ったとき、私にお天気のいろはを教えてくれたのは、鉛筆で気象情報をプロットし、手書きの天気図を書いて予報作業していた気象庁のOBの人たちでした。

当時はすでに、コンピューターで地球大気や海洋・陸地の状態の変化を数値シミュレーションによって予測する「数値予報」が主流でしたし、天気図は「数値予報天気図」でしたが、「手で書き続けた人」しか知り得ない技を、プロの予報官の方たちに色々と教えていただきました。だからこそ、私は天気予報の楽しさを知りましたし、「当たる天気ねーさん」にもなれたと断言できます。

いまだに気象庁が予測しなかった“変化“がおきたとき、手書きの天気図を書き続けた人たちの顔を、教えていただいことを思い出します。カオスの世界を埋めるのは、いつだって「人」です。

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