裏金・脱税三昧の自民国会議員らに国民は心底うんざりしている。28日の衆院補欠選挙は東京15区・酒井菜摘氏を始め3選挙区すべてで立民候補がゼロ打ち圧勝。「当然の結果だ」「政権交代しかない」の声が多く上がっているが、そんな中で自民党がゴリ押しする政治資金規正法改正に向けた独自案は、さらに有権者の怒りを加速させそうだ。今回の法改正の焦点は、会計責任者が処罰された際に国会議員本人もセットで処罰する「連座制」導入の是非。ところが自民党の「いわゆる連座制」案は、「これからも裏金を作り、税を逃れます」と宣言するに等しい、とんでもない骨抜き案になっているのだ。しかもこのことを正確に伝えない報道機関も。毎日新聞で政治部副部長などを務めたジャーナリストの尾中 香尚里氏が詳しく解説する。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:自民党の“および腰”を浮き彫りにした「いわゆる連座制」発言の無責任
プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。
政治資金規正法改正 自民党案は「連座制」とは似て非なるもの
裏金事件に揺れる自民党が23日、政治資金規正法の改正に向けた独自案をまとめた。
野党各党や公明党までが早々に案を公表したにもかかわらず、事件の「震源地」でありながら独自案の策定をさぼり続けた自民党。
22日の衆院予算委員会で公明党の赤羽一嘉氏に厳しく責め立てられた岸田文雄首相(自民党総裁)が「今週中の取りまとめ」を約束させられたことを受け、翌日付け焼き刃的に渋々出してきた案は「実効性なし」「踏み込み不足」と、見事に酷評されている。
これだけ論調が批判一色でそろっていれば、あえて上書きして何か書く必要もないだろうと思っていたが、この言葉だけは耳に引っかかった。
「いわゆる連座制」。
自民党案をまとめた党政治刷新本部作業チームの鈴木馨祐座長が、23日の記者会見で述べた言葉である。
「いわゆる」とは何か。なぜ他党のように「連座制を導入する」と断言しないのか。「いわゆる」というひと言は、自民党がいかに「本来の連座制」導入を嫌がっているのかを、むしろ浮き彫りにしたと言える。
怒れる国民にケンカを売る、自民党謹製「いわゆる連座制」案
「いわゆる連座制」とはこういうことだ。政治資金収支報告書を提出する時、議員は報告書が適正に作成されたことを示す「確認書」なる書類を添付する。虚偽記載などで会計責任者が処罰された場合、議員が十分な確認をせず確認書を出したことが認められれば、議員自身にも刑罰が科され、その身分を失うことになる。
裏金事件では多くの自民党議員が「(会計責任者に任せていたため)知らなかった」と言い逃れをしたが、それを封じることができる、と言いたいわけだ。
岸田首相は24日の参院予算委員会で「会計責任者が適切に収支報告書を出しているかどうか、議員本人がしっかり確認することを怠った場合には、本人の責任が問われる」と強調してみせた。
全く分からない。なぜ確認書が必要なのか。
政治資金収支報告書は、提出された段階で「議員も内容が正しいことを確認している」ことが大前提だ。
報告書の内容を議員が確認していなくても「だから議員に責任はない」ということは、現時点でもあり得ない。
だからこそ今回の裏金事件で「知らなかった」を連発する自民党議員に対し、国民の怒りが沸騰したのである。
それなのにわざわざ屋上屋のような確認書を設けるのは、収支報告書の虚偽記載や不記載が明らかになった時、一足飛びに政治家の責任になるのを避けるためだろう。そして、このクッションが結構ぶ厚いのだ。