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1ドル147円まで急回復…なぜ乱高下を繰り返すのか?誰でも理解できる究極シンプルな解説=田内学

ドルを買う人の「3つの理由」

1つ目は、石油や小麦粉を輸入するためや海外旅行に行くためにドルを購入する人たち。彼らは使用する目的で「買いたいから買う人」である。手に入れたドルは支払いに使われて、手元には残らない。それ以上の取引は発生しない。

2つ目は、アメリカ国債などのドル建ての金融商品に投資するために買う人たち。日本の国債利回りはおよそ0~1%(年限によって異なる)なのに対して、アメリカ国債の金利は4~5%もあるから、アメリカ国債は投資対象としては魅力的だ。

アメリカ国債だけでなくアメリカ株などに投資する人たちも多く、彼らはそれらの金融商品を買うために為替市場でドルを購入する。彼らの多くは、いつかは国債や株を売却して日本円に戻すと考えられるから、長期的には「売りたいから買う人」とも言える。しかしながら、ドル自体の値上がりだけを期待しているわけではない。

3つ目は、ドルの値上がり目的だけで(いわゆる投機目的で)買っている人たちだ。1つ目や2つ目の目的でドルを購入する人たちが増えることを見越して、先回りして買っているのだ。彼らこそが正真正銘の「売りたいから買う人」たちである。

今回、ドル円相場が大きく下げたのは、主に3番目の人たちの影響だ。日銀がマイナス金利を解除して利上げを行えば、日本の国債利回りも上昇する。すると、2つ目の目的で購入する人たちが確実に減ってしまう。だから、慌てて売ったのだ。

もちろん、そこまで思いつかない人もいる。そんな彼らも、価格が下がり始めると「こんなはずじゃなかった」と思って、保有していたドルを売却し始めた。彼らにとっては、値上がりしなければドルなんて必要ないのだ。

ここで、物静かなのっぽの先輩の顔が思い浮かぶ。「ドルを売りたい人が多かったんだろ」。

今回の為替市場の急速な動きからわかることは、市場参加者の中に、値上がり期待でドルを保有していた人がかなり多かったということだ。もし少なければ、日銀総裁のコメントでここまで為替相場は動いていなかった。

世の中の動きを知るには、きっかけとなった日銀の政策について考えるよりも、どうしてそういう人たちが多かったのかを考えないといけない。

1つの理由としては、今年から始まったNISAの拡充があるだろう。新制度が始まれば日本の投資マネーが利回りの高いアメリカの金融商品へ向かうのは自明だから、先回りしてドルを買っている人(投資会社や金融機関なども含む)も多かったはずだ。

だが、そういう説明をしてくれなかったロン毛の先輩が不親切だというわけではない。コメンテーターという意味では彼のほうが親切だ。多くの人々は、本当の理由よりも、納得できそうな小難しい説明を求めている。

「自分の言葉で深く考える」ことの大切さ

拙著『きみのお金は誰のため』でも、投資銀行で働く七海が皮肉混じりにこんなことを言っている。

「私も実感しています。そういうお客さんになめられないように、あえて難しい言葉を使うことがあります」

「なめられないように……ですか?」

そこに込められた、ただならぬ感情が、優斗にも伝わってきた。

「そうよ。私みたいな若い女性って、日本のお客さんには軽くみられちゃうのよね。だから、株価上昇の理由とか聞かれたら、『グローバルな過剰流動性相場』とか、わざと難しい言い回しで答えるの」

「僕には全然わかんないですけど」

優斗は頭をかいた。

「それでいいのよ。難しい単語を覚えただけで、多くの大人は満足するのよ。今の説明って、『世界でお金が余っているからです』と言っているだけなのにね」

きみのお金は誰のため』38ページより

この七海のコメントに対して、小説の中で経済のしくみについて教えてくれる先生役の大富豪はこのように切り返している。

「彼らは、難しい単語が知恵の実とでも思っているんやろな。過剰流動性という言葉を覚えれば理解した気になる。せやけど、知恵の実を食べて賢くなるわけやない。知恵は育てるもんや。重要なのは、自分で調べて、自分の言葉で深く考えることやで」

きみのお金は誰のため』39ページより

経済の専門家の言葉を鵜呑みにするのではなく、それが人々の暮らしや行動にどのように影響しているのかを考えると、市場の動きだけでなく社会の動きも見えてくる。

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※本記事は、田内学氏のメルマガ『金融教育家・田内学の「半径1mのお金と経済の話」』2024年1月13日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読を

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image by: autsawin uttisin / Shutterstock.com
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金融教育家・田内学の「半径1mのお金と経済の話」 金融教育家・田内学の「半径1mのお金と経済の話」 』(2024年1月13日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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