絞られてきた本命。米大統領候補者「ザ・ビッグ5」ってどんな人?

 

ほとんどマンガと化している対外政策論議

とはいえ、もっと深刻なのは対外政策論議の不毛というより無毛な状態である。ハーバード大学で国際関係論を講じるステファン・ウォルト教授は、2月2日付の米「フォーリン・ポリシー」電子版のヴォイス欄で「ザ・ビッグ5と2016年対外政策の悲惨な状態」と題した論評をこう書き出している。

「ルビオは無邪気なネオコン。クルーズは誰からも嫌われ者。ヒラリーはタカ派。サンダースは外交どころではない。そしてトランプが世界をどれほど引っかき回すかは誰にも分からない」

この選挙キャンペーンの全光景にすっかり絶望したので、それが米対外政策にとって何を意味するのかという問題を語ることをこれまで避けてきた。いや、トランプのことだけを言っているのではない。この国が次期指導者を選ぶのに、1年間という時間と何十億ドルの金を費やし、メディアが世論調査のちょっとした変化や論戦のくだらない瞬間を絶え間なく報じるという悲惨な現実のことを言っている。他のどこの先進民主国もこんなやり方をしない。カナダは先頃、同国の歴史上で最も長い選挙を経験したが、その日数は78日間だった──と、教授は選挙戦そのものの馬鹿らしさをひとしきり歎いた後に、この5人の誰かが大統領になるとどんな対外政策になるのかをスケッチしている。それを参考にしながら、我々も今から心の準備を始めることにしよう。

トランプ

トランプは軍事力の増強を絶えず主張している。米国の軍隊は今「非常に脆弱で、かつてなく装備が貧弱になり、しかも徐々に削減されつつあるので、もっと大きく、もっと有能で、もっと強力な、そして何よりも技術的に最先端の軍を建設して、誰も我々に手出しが出来ないようにすべきだ」。「核兵器はまさにパワーであり、その荒廃は私にとって大問題だ。誰も、誰も、誰も、我々に手出しが出来ないようにしてやるのだ」。「トランプ・ドクトリンはシンプルだ。それは力だ。力だ。誰も我々に手出しが出来ないだろう」。……これが米国の大統領になるかもしれない人物の言葉なのだろうか。

尤も、彼が何でもかんでも軍事力で解決できると思っているのかというとそうではなくて、彼はベトナム戦争に反対してきたと主張しているし、イラク戦争については「中東全体を不安定化させる大変な誤りだ」と批判し、リビア介入にも反対であると言っている。ただし反対の理由はちょっと風変わりなもので、サダム・フセインやカダフィ大佐が今も権力の座に留まっていれば、国際テロリストが両国内で活動するのを押さえ込んでくれたに違いないと言うのである。

しかし北朝鮮に関しては強硬で、「ひとたび彼奴(金正恩)が運輸システム(核の運搬手段のこと)を持てば核を使用するだろう。その時が差し迫っているから、核施設を閉鎖しなければならない」。CBS の記者が「北の原子炉に爆弾を落とすつもりなのか」と訊ねると、トランプは「私は何かをするつもりだ」と答えた(つまり、爆撃を必ずしも否定しなかった)。

イラクでも、ISの資金源となっている油田を爆撃する予定で、「私は爆撃で彼らを叩き潰す。ポンプを爆撃する。パイプを吹き飛ばす。1インチも残さず吹き飛ばす。後には何も残らないようにしてやる」。イラク政府が反対するのでは? と問われると、「構うもんか。イラク政府なんて丸ごと腐敗しているんだから」と。それでISを壊滅できるのか? 「ロシアがISを追放しようとしているから、ロシアにやって貰うのがいい。プーチンは非常に頭がよくて才能に恵まれた人物だ」。

本当にこれが米国の大統領になるかもしれない人物の言葉なのだろうか。ウォルト教授は言う。「本当の心配は、トランプの外交政策がどんなものになるのか、我々が全くノー・アイデアであることだ。彼がこういう問題で誰の意見を聞いているのか(たぶん誰にも聞いていない)、どんな本を読んでいるのか、現代の外交や実際の戦争がどう行われているのかを理解しているのかどうか、分からない。……トランプを大統領にするのは暴挙で、私はそんな途方もない社会科学的な実験に参加するつもりはない」と。

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