アメリカの敵は誰か? アカデミー賞から見る、ハリウッドと政治史

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先日開催されたアカデミー賞で、レオナルド・ディカプリオが5度目のノミネートで悲願の「主演男優賞」受賞となり、日本でも大きな話題となりました。映画界最高峰の栄誉とも称されるアカデミー賞ですが、人種差別や宗教差別など、大きな問題も見え隠れしています。無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』では、これまでの賞の歴史を振り返りながら、アカデミー賞と政治について考察しています。

アカデミー賞から見る、ハリウッドと政治史

本日は私が大好きな映画を取り上げたい。今年のアカデミー賞は何度も候補になりながらも受賞を逃してきたレオナルド・ディカプリオが主演男優賞に選ばれ、ものすごく大きな話題となった。しかしながらもう1つ話題となっているのが、2年続けて有色人種が受賞候補から外されたことだ。

これに関してスパイク・リー監督は「黒人がスタジオのトップになるのは、アメリカの大統領になるよりも難しい」と述べたほか、司会のクリス・ロック氏(コメディアン)も「私は、白人によって選ばれた賞の会場にいます」と皮肉った。そういう意味では、映画・アカデミー賞と人種問題は大きな問題であると改めて感じさせた。最近、大統領選でも共和党候補トランプ氏のイスラム教徒や有色人種に対する発言が際立っている。

アメリカの政治とハリウッドの関係はいつも微妙であることから、今日はアメリカのアカデミー賞や映画を振り返りながら、政治との関係を見てみたい。現在アメリカではトランプ氏の「メキシコ国境に壁を作る」という発言がもてはやされているという風潮も出てきている。こういうものが映画にも影響を与えているようにも思う。

アメリカの敵を表現

ここでアカデミー賞の成り立ちをみてみたい。そもそもアカデミー賞は大恐慌があった1929年、あの当時は労働争議が多発していたことを緩和するため経営者層が映画の祭典を作ってガス抜きをしようということからできたのが始まり。

これを独断と偏見で見ると、もちろん「芸術性」ということを第一に置いているのだが、他方アメリカの「政治的主張」を映画を通じて世界に明らかにしていこうとしている。要するに「アメリカの敵は誰か」ということを映画を通じて見せている。そして、そういった映画が話題になっているように思う。

映画で国威発揚

第2次大戦前後のアメリカ映画の政治的特色として、「黒人」「ドイツ」「先住民」を敵役とすることが多かった。また、犯罪映画において犯人を「黒人」にしたり、その一方で「ドイツの非人道性」を暴いたりしていた。アメリカ映画でアメリカのやり方を世界に宣伝したり、冷戦時代には「旧ソ連、共産主義」を批判する映画が非常に多かった。これは、政治社会と映画が密接に結びついているといえる流れだ。

具体的には1950年代に「マッカーシー旋風」があり、いわゆる「赤狩りの恐怖」があった。これを描いたのが「グッドナイト&グッドラック」(GOOD NIGHT, AND GOOD LUCK / 2005)。良く知られた映画で、監督・主演がジョージ・クルーニー。2006年のアカデミー賞では作品賞、監督賞など6部門にノミネートされるも、政治的すぎるという理由から受賞には至らなかった。

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