4島を返還する気がないロシア
これから書くことについて、最初に強調しておきたいことがあります。私がこれから書くことは、「ロシア政府」の考えです。私の考えではありません。なぜ、このようなことをわざわざ書くのか?「ロシアが何考えてるか教えてください!」と聞かれ、教えると、「北野さんの考えは間違っています!」などと言われるから。これは、とてもおかしな論理ですし、私も不快です。「安倍総理は、TPPに賛成ですよ」と言ったら、「北野さん、なぜあなたはTPPに賛成なのですか!」と怒られるのと同じような変な論理。今から書くことは、あくまでも「ロシア」の考えですので、私にクレームしないでください。お願いします。
はたしてロシアは、4島を返還する気があるのか? 私は26年間モスクワに住んでいますが、「返す気は全然ない」と思います。なぜか?そもそもロシアには、「固有の領土」という概念がないからです。では、どういう概念なのか?
「領土は、戦争によってコロコロ変わる」という概念。
ロシアの起源は、9世紀にできたキエフ大公国にあります。この国は、モンゴルに滅ぼされました。その後、モスクワ大公国、ロシア・ツァーリ国、ロシア帝国と変化を経ながら、領土をどんどん拡大し、極東まで到達した。つまり、ロシアの起源はもともとキエフからはじまり、征服して征服して、世界一の大帝国になった。「ロシアの固有の領土はどこですか?」といわれたら、今の100分の1とか、1,000分の1になってしまうでしょう。
ちなみに、歴史に詳しいロシア人と話していると、こんなことを言われます。
「1875年、樺太・千島交換条約で、千島は、日本領、樺太は、ロシア領と決めたよね。しかし、日本は、日ロ戦争に勝ったので、南樺太を奪った。ロシアが『返してくれ!』と言っていたら、返してくれたかな?」
私は、「返すわけないよな」と思いました。それと同じノリで、「ロシア(ソ連)は、日本との戦争に勝って4島を奪った。日ロ戦争で勝った日本は南樺太を返す気が全然なかったのに、日本が負けた場合は、『固有の領土だから返せ』と言うのは、おかしくないかい?」と、こういうロジックができます。「日ソ中立条約違反」の件、「ポツダム宣言受諾後に侵攻してきた」件などを問い詰めても、「日本だって宣戦布告無しで真珠湾攻撃したよね?」などと返されて、攻略できません。
何はともあれ、ロシア政府は、「ロシア(ソ連)は戦争に勝って日本から北方4島を奪った。日本だって、戦争に勝ってロシアから南樺太を奪ったし、清から台湾を奪った。日本が負けたときだけあ~だこ~だ言うのは、フェアじゃない」。こういう意識が根底にあると思います。いくらプーチンが親日といっても、ロシアは第2次大戦で2,000万人の死者を出している。その戦果とされている4島を、全部返すことは困難でしょう。
しかも、ここ2年「経済制裁」「原油価格暴落」「ルーブル暴落」で、ロシア経済はとても厳しい。プーチンの支持率はいまも高く、与党「統一ロシア」は先日の下院選挙で大勝しました。
しかし、このままの状態がつづけば、プーチン政権もどうなっていくか油断できません。とても「4島返すリスクはとれない」ということでしょう。しかも、「4島返す」のは、現状から見るとロシアにとって「大損」です。ロシアは現状、4島を実効支配していて満足している。「何のために返さなきゃいけないのか、さっぱりわからない」というのが、ロシア側の認識なのです(繰り返しますが、私の認識ではありません)。
2島ならどう?
では、2島返還ならどうでしょうか? これは大いに可能性があります。というのも、日ロの間に基盤が存在するからです。基盤とは、1956年の「日ソ共同宣言」です。日ソ共同宣言には、こうあります。
日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行い、条約締結後にソ連は日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡す。
これ、プーチンも「有効だ」と認めている。つまり、日本政府が「2島で手を打ちましょう」といえば、短期間で決着します。
しかし、問題もあります。日本は、残り2島の帰属について、「継続協議」にしたい。ロシアは、「2島返還」で終わりにしたい。これは、とても大きな問題ですね。今回の読売新聞の報道でも、択捉、国後については、平和条約締結後に継続協議となっています。日ロ政府は、この大問題で合意できるのでしょうか?