一方、民事についてはどうでしょうか? この点、企業側に労働者への安全配慮義務違反(労働契約法5条など)があるとして、債務不履行を理由とする損害賠償請求を行う(民法415条)か、企業が劣悪な労働環境を放置し、それが不法行為を構成するとして不法行為に基づく損害賠償請求を行うこと(民法709条)が考えられます。
本来的には、上記の2つの請求は被害者である労働者本人が行うものですが、請求権は相続によって遺族が引き継ぐことになるため、遺族から企業側への請求が可能になります。
上記の2つの手法は、手法の違いこそあれ、実際に請求できる費用項目は同じです。過労死のようなケースでは、逸失利益として、労働者が将来得られるはずであった収入、被害者が死亡したことでの精神的苦痛を償う慰謝料、葬儀費用などが項目として挙げられます。
通常、こうした損害賠償請求においては、加害者側の行為から被害が生じたことを立証していく上で、さまざまな証拠収集活動が必要になります。しかし、過労死のケースであれば、労災の申請をし、それが認定されることで一定程度の証拠収集が可能であるとの特徴があります。
例えば、会社が主張する残業時間と被害者が主張する残業時間に差があった場合なども、労災認定の段階で実質的な残業時間を確定させたりします。また、長時間労働と自殺との関係性についての証拠も得られることになります。
罰金で数十万円の支払いを迫るよりも、多額の賠償金を支払う方が企業にとっては痛手となります。加えて、残された家族の今後の生活にも資するということから、過労死事件においては損害賠償請求が法的対応の主軸となっているのが実情です。
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