今さらだけど、なぜトランプが勝利したか、しっかり検証していく

 

▼いずれにしても、3つのシナリオを前提に考えたい。(1)共和党の中枢と和解し、現実的な中道保守政策を実行する、(2)勝利宣言で「全米のインフラ整備」と「退役軍人ケア」を打ち出すなど従来は民主党の政策だった内容を前面に出し、是々非々で民主党議員団との協調も行いながら、ユニークな政策を打ち出す、(3)結局は優秀な人材が集まらず、極端な政策の一部が本当に実行されることで早期に行き詰まる。

▼(2)は希望的観測にすぎるので、(1)か(3)を前提に考えてみたい。その場合に日本の取るべき道は2つ。(1)を前提にワシントンの穏健な共和党人脈との連携を密にするか、(3)の危険な兆候が出てきたらアメリカ抜きのG6で真剣に協調しながら自由世界の価値を守っていく覚悟が必要。

▼仮にアメリカが絶望的なまでの孤立主義に向かうのであれば、日本はNATOとの協調、韓国との徹底した協調、ASEANやインドとの連携などを中心に「これまでの政策からブレない」ということが必要になる。その場合に、仮にトランプが自由社会のリーダーをヤル気がないのであれば、安倍首相はG6/NATO/アジアの自由陣営の要として、国際社会におけるより重たい責任を担う覚悟をすべき。その場合は、但し、復古主義などの国内政治事情は封印しなくてはならない。

TPPの早期批准はアメリカの選挙結果に関わらず進めるべき。別にトランプに対するイヤミではなく、自由世界、自由貿易の価値を支えていく国という態度表明であり、G6やASEANあるいは日豪などとの相談を続けながら進めるべきではないか。

▼とにかく、日韓は内輪もめしている場合ではない。対北朝鮮の抑止力として、日韓連携にブレのないことを示さねばならない。

▼それは、台湾、香港の現状維持ということでも重要。中国にこの点での現状変更を思いとどまらせるという「アメリカの抑止力」が弱まるのであれば、その分だけ日本がG6と協調して静かな重しにならねばならない

▼別に中国と敵対する必要はない。安倍政権の進めている対中の関係改善はそのまま進める中で、「現状変更には賛成しない」というブレのない「ドッシリした姿勢を見せてゆけば良い。

ロシア外交も同じで、12月の日ロ首脳会談に成果を出しつつ、アメリカの「重し」が弱くなることを受けての、ロシアが現状変更という誘惑にかられることのないように、重厚な姿勢を取るべきだ。具体的にはシリア情勢でこれ以上の勝手を自粛させることだ。

最悪なのはトランプを恐れトランプの尻を追うような外交で、これは日米関係を損なうだけとなるだろう。

▼一つ懸念事項となるのは、アメリカの保守派の間に反日の兆候が少しだけ見られることだ。これには、オバマ大統領の広島訪問という大事件への「反動」が指摘できる。保守派の人気キャスター、ビル・オライリーの「ライジングサンを殺せ」という本が売れているのがいい例で、日本は下手に振る舞うと、「悪者にされる危険性がある。復古主義や、特に第2次大戦史観への歴史修正的な言動は、政権周辺を中心に厳しく自省するべきだろう。今は、それが許される時期ではない。

image by: shutterstock.com

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。「ニューズウィーク」日本版にてコラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」を連載。また、メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。

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