日本を為替操作国に見せた、官邸主導「円安誘導」の動かぬ証拠

 

TPP残留をトランプに説得?

付け加えると、この日経インタビューで「外交ではトランプ氏が次期米大統領に就任します。どのような日米関係を構築しますか」と問われて、菅官房長官はこう言った。

自由、民主主義、基本的人権、法の支配。普遍的な価値観を共有する日米同盟は日本の外交・安全保障の基軸だ。さらに関係を前に進めていく。環太平洋経済連携協定(TPP)には、地域の安定をはかる戦略的意義もある。世界が保護主義的にならないようトランプ氏と話をしていく。

これがこの政権の決まり文句で、なぜ「日米同盟基軸」なのかと言えば、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配という普遍的な価値観を共有」しているからで、さらに、なぜことさらにその価値観を強調するのかと言えば、その価値観を共有できないというか、その正反対にある「不自由、反民主主義、基本的人権無視、法の支配不在」の共産中国に対して米日が結束して戦うということこそ、今日の世界、そしてアジアの中心的な戦略テーマだという世界観があるからである。

そのような安倍政権の反中国の基本姿勢からすれば、トランプが就任早々にTPPからの「永久離脱」を宣言したのは大間違いで、それが単なる通商問題ではなくて、経済面からの「中国包囲網」という「戦略的意義」があることをトランプに教えてやらなくてはならないと、安倍首相や菅官房長官が気負い立っていることが窺える。

しかし、私が思うに、トランプはそもそも「自由、民主主義、基本的人権、法の支配」など、安倍首相や菅官房長官が普遍的だと信じている価値観を信奉していない。信奉していれば、政権発足2週間でこんな無様な大混乱に陥ってはいないはずで、となると、安倍首相はトランプと2月10日の首脳会談で、一体どういう価値観を共有するのだろうか。

トランプ政権の対中国の姿勢は、キッシンジャー元国務長官の影響下での親中派路線と、国際通商会議議長に登用されたナヴァロ教授の狂気じみた反中国路線と、どちらが優勢を占めるのかが全く不可測である状況で、安倍首相が「価値観」とか言って反中国を煽るのはリスクが大きすぎる

ちなみに、ドイツの代表的な時事週刊誌「シュピーゲル」の2月4日発売号の表紙は、自由の女神の首を切断したトランプが「アメリカ・ファースト」と叫んでいる図柄で、ドイツはトランプの米国と「自由」の価値観を共有できないどころか、トランプが自由の敵であることを主張している。

image by: a katz / Shutterstock, Inc.

 

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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