沈黙するTPP。安倍総理が「日米FTA」を水面下で要求された可能性

 

気になるのが1.のパターンで、2月10日から12日に安倍首相自身がワシントンD.C.やフロリダに登場した際には「面と向かっては言わなかった」一方で、それこそ「日米貿易不均衡への不満というのはまだくすぶっているのであればこれは問題です。ですが、仮に問題の根が深いといっても、さすがに日本の総理が2日半も行動を共にする中では「何も言わず」にいて、後になってから「やっぱり日本は不公正だ」などと蒸し返す可能性は低いでしょう。

一つだけ可能性としてあるのなら、安倍首相が「お互いに行き違いがあるようだが、この問題は実務的に麻生=ペンスのコンビで知恵を絞ってもらいましょう」という提案をして、よく言えば「問題を常識人に投げた」、悪く言えば「その場から問題を先送った」という場合です。

仮にそうだとしても、「大統領が問題提起した21世紀版の日米貿易不均衡論議」などという、「生々しい内容あるいはタイトルで協議が始まるということは考えにくいと思います。

そこで現実味を帯びてくるのが3.です。

「TPPという名前は、大統領選挙の選挙戦を通じてトランプ、サンダース、ヒラリーの三人が有権者との対話の中で、完全に潰してしまった」だけでなく、トランプ大統領は「アメリカがTPPの枠組みから降りることを正式に大統領令にサインして表明してしまっています。

その代わりに「日米だけの枠組み」を作るというのですから、これは「TPPの代替としての日米での自由貿易圏の設定」ということ、要するに「日米FTAになるという可能性が高いと思われます。

そうではあるのですが、少なくともトランプ大統領は、選挙戦を通じて「TPPはアメリカの得にならない」と主張し、これと並行して「日本の貿易は不公正」という言い方もして来ています。ですから、現在のTPP交渉における日米合意の部分を「そのままFTA」にするようでは、野党の民主党からもそして支持層からも突っ込まれる可能性があります。

そもそも、オバマがTPPを妥結した後は、議会で批准をしなくてはならなかったわけで、それができないうちにトランプが潰した格好になっています。どうしてアメリカ議会での批准が簡単に行かなかったのかというと、民主党に反対者が多かったからです。実は、TPP推進派のオバマにとって、当時の味方というのは野党の共和党であり、与党の民主党は敵だったわけです。共和党は基本的に自由貿易に理解があるからで、その時点では正に究極のねじれ」がありました。

この構図は今でも続いていますから、仮にペンス副大統領が「新しい日米FTA案」を提案したとして、野党の民主党は頑固に反対する可能性が濃厚です。そもそも、トランプ政権の周辺にしても、例えば発効している「米韓FTA」には批判が多いなど、現在のTPPの妥結内容を日米の部分だけ取り出して、「日米のFTA案」として出したら反対が多くなる危険があるわけです。

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