沈黙するTPP。安倍総理が「日米FTA」を水面下で要求された可能性

 

ですが、例えばペンス副大統領を中心とする「クラシックな共和党」にとっては、TPP改め「日米FTA」というのは急務という面もあるのです。理由の一つは、共和党が医薬品業界との関係が深いという側面です。

TPP交渉の際には最後の大詰めの段階で「新薬開発時のデータ保護期間」という問題で、条件闘争がスッタモンダしましたが、アメリカとしてはどうしても強硬に出ざるを得ない背景として、共和党の存在があったのです。

アメリカにとって医薬品業界とは、巨大な基幹産業です。その競争力は、莫大な経費を使った新薬開発を続けることで保たれています。そのデータ保護期間が短縮されてしまえば、それだけ各国でのジェネリック医薬品が市場に出るのが早まるわけで、大変に困ります。少なくとも大きな市場である日本については、この「TPPでの妥結内容を早く実現したいというのが、業界の願いであり、それを受けた共和党にはそうした意向が強くあります。

では、仮に「麻生=ペンス案」として、日米FTAが提案されるとしたら、どんな内容になるのでしょうか? ベースになるのは「TPPにおける日米合意」でしょう。これが出発点です。では、どう差別化して来るのでしょうか?

恐らくは、今回安倍首相が「アメリカへの土産」として持っていった、「アメリカでのインフラ増強への投資」や、「新幹線やリニアなどの技術提供」などに加えて、トヨタなど日系企業が表明している「アメリカへの投資拡大」を盛り込み、そうした「ウィン・ウィン関係」つまりお互いの利益になる投資や技術供与などの枠組みを盛り込む、そうした差別化になると予想されます。

問題はネーミングです。「TPP」だけでなく、「FTA」という名前もアメリカではかなり反発を買っています。先ほど申し上げた、2012年に発効した米韓FTAは、アメリカ国内では与野党の双方から「失敗ではないか」という批判が絶えません。

そこでネーミングとしては、「TPP」でも「FTA」でもない別の名前になる可能性があります。実は、ヒラリー・クリントンの周辺も、自分たちが政権を担う場合には「TPPは不人気なので名前を変えて通す」ことを考えていたらしく、いずれにしても「ネーミングが重要になってくるように思います。

整理しますと、現在持ち上がっている「日米FTA構想」というのは、政治的な流れとしては「日米首脳会談で決まった麻生=ペンス経済協議」で詰めることになる、その一方で「中身はTPPの合意事項+日米首脳会談の成果」というのがベース、但し「名前はTPPでもFTAでもない別の名前」になる可能性があるということを指摘しておきたいと思います。

image by: 首相官邸

 

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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