どうしてこうした状況になったのでしょうか。これは恐らく地政学的ならびに歴史的な要因と金融政策の2つに起因すると思われます。
まず、英国では古い家屋を改築して住み続けるという伝統があります。地震や台風など天災に見舞われることが少ないため、建物も頑丈なものが多いのが特徴です。また、ビクトリア調、ジョージ調、エドワード調などその時々の元首に基づいた建築スタイルが残っていて、ロンドン引っ越し時に借りた物件もビクトリア調で築100年くらいでした。よほど建物自体に問題がない限り、値下がりしたと聞いたことはありません。
2つ目の要因は金融政策によるものでしょう。欧州との統合を図りポンドを欧州通貨と連動させる欧州為替相場メカニズム(ERM)が1992年に破綻して以来、英国は独自の金融政策を貫いてきました。これが欧州危機の際には奏功し、安全を求めて国外から資金が流入。世界のあちこちで危機が発生する度に英国には資金が流入。こうした資本はリターンを求めてリスクの低い不動産市場へと流入。国内外で発生する衝撃を尻目に不動産価格は上昇し続けたわけです。
債務危機時には南欧から、ロシアが低迷するとロシアから、ちょっと前までは中国からはバブル資金が流れ込み、現在はアラブ諸国から資本がやってきている状況です。著名建築物なども物色されて、高級百貨店で知られるハロッズはカタール資本の傘下にあります。
また、総じて経済が好調な英国に国外から仕事を求めた移民が増え続けていることも忘れてはなりません。またこのことについては別の機会に紹介したいと思いますが、英国は先進国の中でも人口が純増している稀な国です。
バブルを警戒する声はずっと聞かれますが、まだまだ破裂する気配は感じられません。ちょっとした波風もこれまで通り、乗り越えるような様相で、一般庶民にとってはクレーンをはじめとする建設現場の騒音と、クレーンによって手の届かない水準に押し上げられた不動産価格を眺めるしかないようです。
藤隼人
image by: Shutterstock
『出たっきり邦人【欧州編】』
スペイン・ドイツ・ルーマニア・イギリス・フランス・オランダ・スイス・イタリアからのリレーエッセイ。姉妹誌のアジア・北米オセアニア・中南米アフリカ3編と、姉妹誌「出たっきり邦人Extra」もよろしく!
<<最新号はこちら>>