3点目は、「運命共同体」という表現です。非常に強い信頼関係や業務提携をする際にそうした感覚を持つのは結構です。国際間でもそうした関係が口にされることはあります。ですが、それを言うのなら「有言実行」しなくてはなりません。ワールドカップに加えて、練習や合宿へもエンジニアが同行して、本当に一心同体となってチューニングをやり、本当に黒子となって全ての試合で好成績を収めるような行動をしたのかというと、どうやらそこまでの対応はできなかったようです。モノだけ作って、あとは信頼関係でよろしくというような甘えは通用しません。
4点目は、法的措置についてです。契約違反だから「告訴する」というのですが、では、その契約書にはこの種の紛争になった場合の具体的条項は全部書いてあったのでしょうか? 書いてあったのなら勝てるかもしれません。ですが、日本流に「その他の疑義が生じた場合は双方信頼関係をもって協議する」というような「お人好し曖昧条項」が入っていて、しかも紛争時の所轄裁判所を「日本」に指定できていないのなら、まず勝ち目はないでしょう。ちなみに、係争時の所轄裁判所の指定が契約書にない場合は、国際慣例から「第三国の裁判所」が指定され、勝ち目はないと思います。ちなみに英連邦のジャマイカは、実定法ではなくコモンロー(社会常識という不文律を重視)する法体系ですから、「負けるのが分かっていたので使わなかった」という判断をひっくり返すのは至難の技と思われます。
いずれにしても、こうした国際ビジネスには独特のノウハウが必要ですし、出張費や保険などの必要なコストも用意しなくてはなりません。だからこそ、戦後の日本経済は、そうした機能を商社という専門集団が担って成功したのです。その反面で、商社以外の現場では、国際ビジネスのノウハウは希薄なままでした。今回の問題はそこにあるのではないかと思います。いわば、日本経済全体の問題であり、現在の競争力衰退の一因でもあります。
仮にこのまま事態が推移したとして、下町プロジェクトの方々だけの責任とするのは余りに酷な話です。政治が介入したので、余計に「引っ込みがつかなくなった」という悲劇も匂いますが、だからと言って政治的に批判するだけでは、教訓は得られないのではないでしょうか。
image by: 下町ボブスレーネットワークプロジェクト公式サイト