イオンも瀕死。ドラッグストアに客を奪われ没落する大手スーパー

2018.03.12
 

ドラッグストアに死角はあるのか

さて、このように成長率が高く死角がないように見える、ドラッグストア業界であるが、薬剤師の不足が深刻化してきている。

2012年に薬学部4年制から6年制への移行による初めての国家試験が行われたため、一時的な薬剤師不足が生じたが、28校もの大学に薬学部が新設され、いずれ薬剤師は過剰になると言われていた。しかし、ドラッグストア業界の成長もあって、実際は薬剤師の求人の張り紙があちらこちらの店舗に張ってあるのが現状だ。

ドラッグストア業界では初任給で月給25~30万円と言われ、ウエルシアでは月給約43万円(年棒制のため賞与分を含む)と、かなり厚遇で迎えているが、薬剤師が調剤以外の仕事をする機会も多く、それを快く思わない薬剤師もいる。調剤以外の仕事とは、かぜ薬、胃腸薬、傷薬など家庭用常備薬に関して顧客の相談に乗る、品出し、POP作成、店によっては食品や化粧品も含めたレジ打ちまでするケースもある。

市販薬の知識は、調剤では得られないので、薬剤師でも幅広く医薬品の知識を身につけたい人にとっては向いた職場だ。しかし、顧客対応が苦手な人には勤まらない。人手不足だからと、レジ打ちにまで駆り出すと、アルバイトのように扱ったと辞めてしまいかねない。

ドラッグストアでは夜の9時、10時と遅い時間まで調剤を営業している店が多く、長時間労働になりがち。年収が高くても遅い時間まで働かせると、嫌がられて離職される確率も高くなる。また、薬剤師には女性も多いので、産休・育休の考慮、子育てのために一旦仕事を辞めていた薬剤師の再雇用も必要となる。このように薬剤師の人材確保が課題となってくるだろう。

以上、論じてきたように、イオンを始めとするGMSの顧客を容赦なく奪っているドラッグストア業界であるが、実はその最大手ウエルシアはイオンの連結子会社である。2014年11月にイオンが株式公開買い付けを実施し50.1%の株を保有するようになった。

その意味では売上が移転しただけではあるが、セブン&アイ・ホールディングスの主力2社のうちのコンビニチェーン「セブン-イレブン」が、GMS「イトーヨーカ堂」を脅かしているのと似たような構図になってきた。

ウエルシアの店舗では「Tポイント」カードによる販売促進を行っている。イオンの「WAONカードの普及には寄与していない。また、ウエルシアの店舗に行っても、イオンのプライベートブランド「トップバリュの製品はほとんど見ない

セブン&アイの2社では、「nanaco」カードによる販売促進、プライベートブランド「セブンプレミアム」の品揃え強化で、足並みが揃っているのと大きな違いだ。

背景として、ウエルシアの場合、イオンが買収した会社というのがあるが、今後ウエルシアの勢いがさらに増すと、イオンモールのみならず「WAON」も「トップバリュ」も衰退していくリスクがある。そうなるとイオングループ全体の売上や利益率はウエルシアのおかげで高まるかもしれないが、イオンのブランド力自体はどんどん低していくのではないだろうか。

image by: Wikimedia Commons(Yumimi)

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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