リストラ技術者を大量採用し大成功。アイリスオーヤマ変貌の秘密

 

家電メーカーへ変貌の秘密~アイリス流モノづくり

アイリスが家電メーカーへと変貌できた秘密が、大阪の「大阪R&Dセンター」にあるという。初めて撮影を許された「なるほど家電開発の中枢。すでに洗濯機やエアコンなど、大型の白物家電も手がけていた。

開発が可能な理由は人材にあった。そこにいるのは東芝、シャープ、パナソニック……ほとんどが大手家電メーカー出身のベテランエンジニアなのだ。

アイリスが家電部門を一気に拡大したのは2012年。その頃、大手家電メーカーは海外勢との戦いに敗れ、大規模なリストラを断行していた。大山は、家電業界のピンチをチャンスと捉え、職を失った優秀な技術者を大量に採用。一気に、家電事業のアクセルを踏んだのだ。

「有能な技術者までリストラされた。彼らの持っているノウハウと我々の持っているアイデアをミックスしよう、と」(大山)

アイリスの躍進を支える、新天地で再出発したベテランたち。シャープでエアコンのエキスパートだった雨堤正信が当てたのは、スマホを使って誰でも簡単に遠隔操作できるエアコン。「帰宅する前に部屋が暑いと思えば、先にエアコンを入れられます。年を取ってもやる仕事はあるんだなと思いました」と笑う。三洋電機出身の犬飼正浩も「『こういう商品が欲しかった』と言われるのが、やっていて一番の楽しみです」と言う。

「なるほど家電」が飛ぶように売れているもう一つの理由が、その安さにある。

例えば炊飯器。大手が高級路線を押し進める中、アイリスは水量の自動計測機能が付いていても2万円程度。ゴミセンサー付きのコードレスクリーナーは、他の大手製品に比べて、半額近い価格だ。さらに人感センサー付きのエアコンも、大手メーカーは10万円を超えるものが多い中、アイリスは約5万円。

アイリスには他のメーカーと全く違う価格戦略がある。その舞台が、毎週行われる「商品開発会議」。腕利きの開発者たちが、様々な「なるほどアイデア」を、社長の大山に直接プレゼンする場だ。

ある日の提案の中には、あのふとん乾燥機の改良型も。ノズルを2本に増やし、パワーも増強。家族の布団を1枚ずつ乾燥させる煩わしさを解消した。

ところがこの会議では、アイデアよりももっと重要な判断基準がある。「いくらなら売れるのかが最大のテーマなのだ。

例えば、従来品よりも風を強くした送風機のプレゼンでは、1万2800円と提示された販売価格に対して、大山から「お客さんの目線で考えたら、値ごろを外している。9800円。その中でコストをどう詰めるか、考え直して」との声が飛んだ。客が値ごろと感じる価格にできるかが、製品化の絶対条件なのだ。

「お客様の立場で言えば、いくら欲しい物でも高すぎたら買わない。『このぐらいなら』という許容範囲に合わせて原価をブラッシュアップする。それが当社の開発手法です」(大山)

多くの家電メーカーの商品は、新たな機能を加えればその分、価格も上げていくのが値付けの常識。しかしアイリスでは、まず魅力的な価格を決めて、その価格を実現するために原材料や機能を徹底的に見直していく。

例えば炊飯器では、大手メーカーが釜にコストをかけて10万円を超える高級品を次々と投入しているが、アイリスは高いものでも3万円程度の設定だ。その価格を実現するために各社の釜を徹底的に比較。釜にコストをいくらかけるべきか検証したところ、「一定以上のコストをかけても、我々の食味のテストではおいしさに差が出なかった」(家電開発部長・原英克)という。

おいしさに差が出にくい釜に必要以上のコストはかけず、その分、客が喜ぶ便利な機能を搭載し、安くて魅力的な商品を作り上げたのだ。

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