行列おにぎり&こだわり総菜~「なるほど社長」の大決断
アイリスオーヤマが客を魅了するのは家電だけではない。近鉄大阪難波駅で人だかりを作っているのは、注文を受けてから握るおむすびの「箱夢」難波店。使っている甘みたっぷりのおいしいお米はアイリスオーヤマの宮城県産「つや姫」だ。
アイリスオーヤマは5年前にコメの精米事業をスタートさせた。そのおいしさはセブンイレブンがプライベートブランドの米に採用するほど。アイリスの米に変えてから、「20%以上、販売が伸びております」(セブン-イレブンジャパン商品本部・北村成司さん)と言う。
その秘密は宮城県亘理町に70億円をかけて建設した巨大工場に。ここでは他にはない精米が行なわれているという。「精米工場は低温で管理されていておいしさを保つことができるんです」(製造本部長・佐久間佑一)
一般に、米は精米するとその摩擦熱でうま味成分が減少、味が劣化してしまう。そこでアイリスは工場内の温度を15度以下に管理。うま味を逃さない低温製法を開発したのだ。
アイリスが米事業に参入したきっかけは東日本大震災。大山は、地元の農業を守ろうと被災した農家の米を買い取り、低温で精米するビジネスを立ち上げたのだ。米農家の丹野清人さんは「地元の企業が農家のことを思ってくれるのはうれしいですね」と言う。
そして大山がまた新たな支援に乗り出した。今、社長の大山が力を入れているのが地元の若手経営者を育てる人材育成塾。気仙沼で水産加工品を手がける千葉豪さんも塾の卒業生だ。千葉さんが作っているのは、地元の海産物で作るこだわりの総菜だ。
千葉さんは大山の呼びかけで、卒業生2人と新しい会社を立ちあげた。漁師歴17年の藤田純一さんがウニなどの新鮮な魚貝類をとり、仲買人の吉田健秀さんは旬の珍しい魚を市場で買い付ける。「大山社長に『お前たちが組んだらもっと面白いことができる。組んでみなさい』と言われたんです」(藤田さん)
津波で自宅を流された3人のタッグで、地元の魚をふんだんに使った加工品づくりが可能になり、ネットで全国販売を始めたのだ。
ピンチこそ飛躍する最大のチャンス。自らが証明してきたその言葉を、大山は東北の地に根付かせようとしている。
その大山は、大きな決断をしていた。今後、経営は長男の晃弘に委ねるというのだ。
「今まで社長としてスケジュールがタイトだったのが、少し余裕ができるので、地域貢献にも今まで以上に時間を費やすことができるかなと考えています」(大山)
~村上龍の編集後記~
大山さんは柔和な笑顔の持ち主だ。だがスタジオで質問する際、目が鋭くなった。
もちろん脅すような視線ではない。絶対に一言も聞き逃さない、どのような応答がもっとも適切か瞬時にして考える、目がそう語っていた。
家電に参入して成功し、そのユニークで卓越したアイデアがいつも注目される。
だが、その最大の強みは、徹底した情報共有にあると思う。
独自の経営は、厳密なコミュニケーションに支えられていて、他は真似できない。
「なるほど」と簡単には納得しない姿勢が、「なるほど」と思わせる商品を生みだし続けている。
<出演者略歴>
大山健太郎(おおやま・けんたろう)1945年、大阪府生まれ。1958年、父・森佑が大山ブロー工業所を創業。1964年、父の急逝により代表に就任。1971年、アイリスオーヤマを設立。
(2018年6月21日にテレビ東京系列で放送した「カンブリア宮殿」を基に構成)
source:テレビ東京「カンブリア宮殿」