オンワード大量閉店600店の衝撃。百貨店アパレル終わりの始まり

 

オンワードが投資を強化する3つの「成長領域」

もっとも、ネット販売に関してはオンワードHDも力を入れている。19年2月期のEC(電子商取引)売上高は前期比25.8%増の255億円と大きく伸びた。増加額は52億円にもなる。ただ、実店舗等の販売額が70億円減っており、ネット通販の増加分で補いきれていない

オンワードHDはEC販売を強化している。その一環としてか、ゾゾタウンからは撤退した。昨年12月にゾゾタウンを運営するZOZOが始めた10%引きで買い物ができる有料会員向けサービス「ZOZOARIGATOメンバーシップ」(現在は終了)でブランド価値の毀損を嫌ったためだが、自社サイトでの販売を強化するためでもある。ゾゾタウンでは売上高の3割超の手数料を取られるため、同サイト経由の利益率は低い。そのため、自社ECに注力した方が得策と判断したのだろう。

オンワードHDの19年2月期のEC売上高に占める自社ECサイト経由の割合は76%と高い。オンワード樫山だけでいえば85%にも上る。グループのECサイト「オンワード・クローゼット」のアクセス数と購入者数はともに前期比35%増と大きく伸びている。自社ECサイトの会員数も30%増の265万人まで拡大した。このように好調ではあるが、それで満足せず、EC売上高をさらに高めたい考えだ。

17年10月から販売を始めたオーダースーツブランドカシヤマ ザ・スマートテーラーも期待したいところだ。店で採寸してオーダーすると最短1週間でスーツが届く。2着目以降は店に行かなくても採寸した体形データをもとにサイト上でオーダーすることができる。また、地域限定ではあるが、熟練のフィッターが出張して採寸するサービスも提供する。

労働の担い手となる生産年齢人口の減少やオフィスにおける制服のカジュアル化などでスーツの需要は減っている。ただ、勝負スーツを1着は持っておきたいというニーズが高まっており、オーダースーツ市場は例外的に伸びている。様々な業界の企業が参入し、業界の垣根を越えた競争が繰り広げられている状況だ。そうしたなか、オンワードHDは「カシヤマ ザ・スマートテーラー」に磨きをかけて競争を勝ち抜き、市場を開拓したい考えだ。

ともあれ、中~高価格帯のアパレルブランドは百貨店に頼っていては立ちいかなくなっている。新たな販路の開拓や非アパレル分野への進出といった従来とは異なる戦略を採っていく必要があるだろう。

そうしたなか、オンワードHDは構造改革を進めて事態の打開を図る考えだが、成長戦略の面では「デジタル」「カスタマイズ」「ライフスタイルの3つの成長領域への投資を強化する方針だ。

デジタルに関してはEC事業が核となり、カスタマイズはオーダースーツ事業が核となるだろう。ライフスタイルに関しては、生活雑貨や食品などのライフスタイル部門を強化し、これらの販路を活用したり、相互送客することでアパレル事業のてこ入れを図る考えだ。例えば、前述のカタログギフト会社が手がけるカタログギフトの販路でアパレルを販売する、といったような相乗効果を見込んでいくことになるだろう。

百貨店アパレルは岐路に立たされている。オンワードHDの構造改革が成功するのか、注目が集まる。

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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【著者】 佐藤昌司 【発行周期】 ほぼ日刊

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