ここにもアベ友の影。無茶な「リニア新幹線」がゴリ押しされる訳

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2027年の開業を目指し整備が進められているリニア中央新幹線ですが、その先行きは明るいものではないようです。ジャーナリストの高野孟さんは今回、自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、各新聞や雑誌でも指摘されている自然破壊問題や技術及び安全面のリスクを挙げ、リニア新幹線を「乗客・乗員の命を守れるのかどうかも疑わしい未成熟なレベルの代物」と結論づけています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2020年1月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

開業延期どころか工事断念に追い込まれかねないリニア新幹線──安倍晋三首相のお友達ゆえの葛西敬之氏の傲慢の結末

JR東海のリニア中央新幹線は、昨年12月で着工5年を経過した。27年開業という公表予定を達成するには、昨年中にすべてのトラブルを解決して工事を軌道に乗せる必要があったが、静岡工区の南アルプス山地を貫くトンネル掘削による大井川水系の水量減少を懸念する川勝平太同県知事との2年以上にわたる対立が膠着したままであるのに加えて、各地で住民による差し止め訴訟など反対運動が高まって、打開の目処が立たないまま越年せざるを得なかった。

そのため、一般紙では12月10日付読売新聞の「リニア開業延期現実味」、同22日付朝日新聞の同趣旨の記事、さらには11月24日付赤旗の「リニア工事・大井川流量減少」などが、

1.静岡工区の環境破壊問題や各地で起きた住民訴訟などですでにこのプロジェクトが政治的にズタズタなっていることを報じているが、

2.それらがきちんと触れていないのは、そもそものリニア技術が実のところ未成熟で、こんなものに乗れる訳がないだろうと思うようなリスクをいくつも抱えていて、それを指摘しているのは会員制情報誌『選択』だけである。そこを突き詰めると、さらに、

3.その背景にある21世紀の社会のあり方、その鍵となる自然と人間の関係についての文明論的な議論に行き着くことになるだろう。

それら各次元の問題に誠実に向き合うことなく、安倍晋三首相のブレーンという立場を利用して、政府から総事業費の3分の1に当たる3兆円もの財投資金を引き出し、力任せにこれを強行しようとしてきたのが、葛西敬之=JR東海名誉会長である。その無理と無茶が通らなくなるのが今年ではないか。

以上の3点を、下から順に吟味しよう。

「速い」ことがいいことだという時代錯誤

一体誰が、東京から名古屋まで30~40分で行きたいと思うのだろうか

私は2001年以来、少なくとも月に一度は名古屋に行って、中日新聞主宰の栄中日文化センターで2時間の講義をするということを20年続けてきた(それも今年3月で終わって以後は年に4回の特別講演会というペースとなる予定であるけれども)。

その場合、私は朝10時半頃に東京か新横浜で新幹線に乗って行く。東京発の場合は大丸の地下で弁松総本店の江戸風の「折詰め弁当」、新横浜発の場合だと崎陽軒の「シュウマイ弁当」を買って、30分ほどして車内でおもむろに弁当を開きゆっくりと味わう。食後に車内販売のコーヒーを楽しんで、本を読んだりウトウトしたりしながら12時前後に名古屋に着き、13時からの講義に臨む。

これがリニアで行くことになると、たぶん私は品川駅でコーヒーとサンドイッチでも買って11時半に乗り込んで、急いでそれをパクついて、ウツラウツラする暇などあるはずもなく、12時過ぎに名古屋に着くのだろう。私はそんなに慌ただしく名古屋に行きたいとは思わないので、仮にリニアが走っていたとしても、必ず新幹線に乗ることになる。

リニア新幹線の基本にあるのは、「速いことはいいことだという20世紀の文明論の残骸である。20年以上前には、「大きいことはいいことだ」ったし「速いことはいいことだ」った。しかし近頃そんなことを声高に叫ぶ人はおらず、世の中はむしろ正反対に進んで、「スロー・ライフ」などと言われるように、バタバタしないで、ゆっくり考えたり動いたり食べたりするほうが格好がいいと思われる時代になっている。そこで「どうだ速いだろう、これに乗ってもっと忙しく働いて、もっと稼いだらどうだ」と訴えかけているのがリニアで、文明論的に時代錯誤なのである。

20世紀には「速い」ことが1つの価値であったが、21世紀にはそれはむしろダサい。

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