クルーズ船で露呈。自分より有能な部下の意見を聞けぬ日本の官僚

 

一番大切なのは5.です。このスキルは、管理監督者として「絶対」に必要なものです。そうでなければ、管理監督者は全能者となって、その分野の全ての知識を習得し、絶対的な判断力を持っていなくてはなりません。人間の組織というのは、そうではなくて、情報や判断材料は「自分より有能な部下」から上がってくるわけです。そこをちゃんと出来ない人、その点で「ムカつく」とか「有能な人を嫌う」という種類の人は管理のポジションに置いてはダメです。

こうした管理能力のことを、例えば古代中国では「諫言に従う」という言い方で表して来ました。つまり皇帝は、臣下からの「それは違います」という反対意見などをしっかり受け止めて、それに従うべきという考え方です。

例えば、ある王朝のある皇帝(唐の太宗李世民など)の場合は、「流れるように諫言に従った」という形容で歴史に名を残しています。つまり部下の「耳の痛いような反対意見」に対しても、「一切怒らず」自然にそれに従ったというのです。

では、この種の管理スキルというのは、東洋的なものかというと、西洋でも似たうような事例は沢山あります。アメリカのレーガン大統領は、ブレーンの進言を、それこそ「流れるように」受け入れたばかりか、それを世論に対して分かりやすく翻訳する「コミュ力」を持っていたとされます。

例えば、不十分(特に部下の進言の要点を深く理解して自分の言葉に翻訳するスキルが足りない)ではありますが、安倍総理や、ブッシュ大統領も、少なくともこの点ではできないと言うよりは、できた方だと思います。

管理だけでなく、教育・指導もそうです。自分より能力の高い子どもの能力を見抜いて伸ばすのが教師ですが、往々にして「質問は邪魔」だとか、「私と張り合うのか」的な姿勢を見せて、折角の才能を潰す教師がゴロゴロいるわけで、こうした人物は社会の敵だと思います。

日本のヒエラルキー文化というのは、年齢や学年、職歴、職位に応じて「権力が最初に与えられ」てしまい、それを使い果たしてゲームオーバーになってもいいという、バカみたいなところがあります。そうした文化の弱点を知って、少なくとも管理者や指導者は「自分より優秀な人物をハッピーにし、モチベーションをより高める」のが仕事だというようにしなくてはダメです。

今回の新型肺炎の場合は、この問題のために救える命が救えないということが起きる可能性があります。また、日本経済ということでも、こうした「間違った管理者、教師」の存在を許すことで、ものすごい損失が発生しているのではないかと思うのです。

image by: Kevin Hellon / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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