7月に九州をはじめ、日本各地を襲った集中豪雨。しかし、その報道で「観測史上最高の雨量」という言葉を何度も耳にしたという方は多いのではないでしょうか。主にNHKの災害情報やニュースで使われているというこの言葉に、「故意の騙し」があると指摘するのは、中部大学教授の武田邦彦さんです。今回のメルマガ『武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』』で武田教授は、「観測史上最高」の本当の意味と、それを使って視聴者を脅すNHKや気象庁の姿勢に対して怒りの声をあげています。
分かっていても言わないNHK。「観測史上最高雨量」の本当の意味
最近のコロナウィルスは別格だが、日常的にも同じ「脅し」がつづいている。
そのひとつが「観測史上、最高の雨量」なる表現だ。雨量はアメダスと呼ばれる観測所で測定されているが、全国のアメダスの設置数は約1300である。
「常識的」には「観測史上、最高」というと日本でもっとも多い雨量を超えたということだが、それより狭い地域で表現することもある。たとえば「7月の九州では最大」というように地域と時期を特定する場合もある。
しかし、今のNHKの「観測史上最高」というのは、ある一か所のアメダスで観測し始めてからもっとも多い雨量を示した時間や日にちを言う。アメダスの観測網が整備されたのが1979年だから、「観測の歴史」は40年ほどである。つまり、まず「観測史上」というのは40年間で最大ということだから、テレビのアナウンサーは「観測史上最高」と言いつつ、並行して「数十年に一度の豪雨」と言ったりしている。
さらに奇妙なのは、一か所のアメダスごとに「新記録」と言うので、1300か所あるアメダスのどこかが「最高値」を示すと、40年にわたって毎年「観測史上最高記録」が出る。事実、ここ10年ばかり毎年「観測史上最高記録」 を出しているので、聞いている方は「なにか最近、気象が荒れてきたのかな?」と錯覚する。
「どこのアメダスが1時間100ミリを観測した」と言うか、「その地方では40年の観測では初めて」と表現するのが良心的だろう。
さらに故意の騙しがある。それは多くの人が聞いているセリフ「1か月分の雨が1日で降った」という表現が定着していること。実に不誠実な人が気象庁やNHKにいるものである。雨というのは、毎日毎日降っているものではない。降ったり止んだりの日もある。1か月に雨が降っている時間を合計すると平均で3日になる。つまり「1か月分の雨」というのは「3日分の雨」ということであり、「普通の雨の3倍」とも言える。でもそう言うと国民が驚かないので、 大げさに言う。
私がテレビのニュース番組に出ている時によく気象予報士に「それは不誠実な言い方だ」と注意をするので、やがて降板させられた。なぜ、正直に言わないのだろうか?
ホッキョクグマといい、雨量といい、脅すだけ脅すということだが、昔の気象のような「理科的な現象」はお父さんが知っていて、「そんなことはないよ」という時代ではない。誰もが知ることのできる時代になったのは良いことだが、それを逆手にとって子供らを脅すのはよくないと私は思う。
テレビの人、科学の教育を受けた人が早く誠実になることを期待する。(メルマガより一部抜粋)
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