国連専門機関15の27%が中国人
Q:国連専門機関四つのトップを押さえたというのは?
● 国際連合システム
※国連専門機関や関連機関のリストあり。
小川:「時系列で見ると、まず2007年1月にWHOの事務局長にマーガレット・チャン(陳馮富珍=チャンフォン・フチャン)が就任し、10年務めたあとテドロスにバトンタッチしています」
「彼女は香港生まれで、1978年から医師として香港政府に勤務、94年に衛生署長(日本の厚労大臣)となり、97年の鳥インフルエンザ発生時や2003年のSARS流行時に対策を指揮しました。03年8月からWHO事務局入りし、06年に中国がWHO事務局長選挙の候補として推挙し、当選しました。チャン事務局長は2016年、民主進歩党政権の台湾に、一つの中国と明記したうえでWHO総会の招待状を送っていますが、翌17年には中国政府の意向を受けて台湾を招待していません」
「2013年6月にはUNIDO(国連工業開発機関)の事務局長に李勇(Li Yong)が就任しました。彼は中華人民共和国財政部(財務省にあたる)で02~03年に財務次官補、03~13年に財務次官を務めましたが、それ以前には1985~89年に中国の国連代表でした。UNIDOは、発展途上国──とくにアフリカなどのLDC(=Least developed country 後発開発途上国)諸国の持続可能な産業発展を支援し、環境面などでの工業発展問題を克服するための機関です。シエラレオネ出身のカンデ・ユムケラー前事務局長時代、その腐敗や縁故主義に嫌気がさして米・英・仏・カナダ・オーストラリア・オランダ・ニュージーランドが脱退し、最近もポルトガルが脱退しています」
「2015年には中国人民解放軍出身の趙厚麟(Zhao Houlin)がITU(国際電気通信連合)の事務局長に就任しました。その後、5Gに関心の薄かったITUは、中国が力を入れる5Gの世界標準設定への動きを大きく強めた、とされています」
「以下の坂本正弘さんの論考は、『加盟国169のうち、途上国が大半を占める中で、中国が、国連の威光を持ち上げ、その影響力を高めている。中国の政府、企業は活発に動き、会議には大代表団を送り、そこでの主導権を高める一方、中国で、5G関連の会議を多く行い、得意の接待外交により、各国の支持を強めている』『4Gまでの、米企業の世界標準の成果に油断したところに、中国政府とファーウェイなどの中国企業の予想以上の挑戦にたじろいでいる面がある』としています。そのとおりで、アメリカは慌ててファーウェイその他の中国企業排除を強めているところでしょう」
●先端技術覇権を巡る米中闘争(日本国際フォーラム上席研究員 坂本正弘 「国際金融」2019年1月1日号)
「同じく15年には、柳芳(Liu Fang)がICAO(国際民間航空機関)の事務局長に就任しました。その前には彼女は中国民間航空総局に勤務し、直前には二国間および多国間航空輸送協定に関する中国政府の首席交渉官でした。13年ころから台湾はICAOの会議に参加していません。20年1月には米中台関係に特化したシンクタンクに従事するジェシカ・ドランさんが、進行中のコロナウイルス危機のなかでWHOとICAOが台湾を国際協力から除外しているとツイッターで言及しました。これに賛同するツイートが増えると、ICAOの公式ツイッター・アカウントがドランさんをブロックし、さらに問題になりました」
「2019年8月には、屈冬玉(Qu Dongyu)がFAO(国連食糧農業機関)の事務局長に就任しました。彼は01~08年に中国農業科学院の副院長、その後に寧夏回族自治区主席補佐、11年からは同自治区副主席、15年からは中国農業農村部の副部長(日本の農水省の副大臣に相当)でした」
「このように中国は、先進国があまり関心を持たないか、投げ出してしまったか、または油断していたような国際機関に注目して、事務局長ポストを取るという作戦を、地道に進めているように見えます。貧しい小国でも国際機関では大国と同じ1票をもっていますから、そこで着実に影響力を拡大し、中国が望む方向への転換を試みているわけです。中国寄りのテドロスの前任者は、中国人だったのです。以上現職4人のうち3人はオバマ政権時代に就任しており、トランプ政権時代以前から中国の影響力は強まっていたといえます」
欧米が巻き返したWIPO事務局長選
Q:中国のこうした動きは今後も続くと見るべきですね? Q:最後に一つ。日本は、以前はけっこう国際機関の事務局長など重要ポストに人を送り込んでいたと思いますが、最近パッとしないようです。いかがですか?
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