日本のミサイル防衛代替案に欠陥。軍事アナリストが呆れた平和ボケの実態

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防衛省が白紙撤回となったミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の代替案3案をようやく示し、自民党内でも議論が始まったと伝えられています。軍事アナリストの小川和久さんは、どの案を進めてもある程度の時間を要するのが「致命的」と問題視。主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、私案を示しながら、ミサイル防衛の空白期間を可能な限り短くするという意識と議論の必要性を訴えています。

切迫感がないミサイル防衛

防衛省はこのほど、イージスアショアの白紙撤回を受けて次のようなミサイル防衛の代替案を自民党・公明党に提示しました。

(1)弾道ミサイル迎撃に特化した専用艦を含む護衛艦型、(2)石油を採掘するやぐらのような構造物(海上リグ)型、(3)民間船舶活用型─の3案です。

それぞれに長所もあれば短所もあります。これを叩き台に、適切なミサイル防衛能力を整備してもらいたいと思います。

ただ、この防衛省の姿勢には致命的な欠陥があります。それは「戦っている」という意識に欠けていることです。どの代替案にせよ、決まるまでに一定の時間がかかります。違う提案が出てくる可能性もあります。それはよいとして、決まってから実戦配備までの時間は、これまでの例からして少なくとも5年は見なければならないでしょう。政治がらみの失敗によって、普天間基地移設問題のように暗礁に乗り上げることもあります。

しかし、弾道ミサイルの脅威は「いま、そこにある危機」なのです。北朝鮮や中国、ロシアと緊張状態にあろうと、緊張が緩和されていようと、いつ緊張状態が増すかもしれません。そこにおいては、世界に弾道ミサイルの脅威がある限りミサイル防衛態勢を進化させていくと同時に、空白期間をできるだけ短くする工夫が必要です。

戦場で弾薬が切れたとき、弾がなくなりました、補給があるまで掩体(塹壕)の中に避難して待ちます、なんて言わないでしょう。そんなときは、友軍に借りるのは当たり前のことです。ミサイル防衛でいえば、ともに弾道ミサイルの脅威と向き合っている米国の力を借りるのは、同盟国として当然のことですし、米国にとっても利益のあることです。

これまで私は、代替案の実戦配備完了までの「つなぎ」の位置づけで、米海軍のイージス艦を借りて配備するように提案してきました。米海軍は全体で89隻あるイージス艦のうち39隻をBMD対応艦として、中国、北朝鮮などの弾道ミサイルへの防衛に充てています。BMD艦は2021年9月までに48隻、25年9月までに65隻に増やされる予定です。

このうち4隻を借り、常時2隻を日本側の経費負担によって秋田県と山口県沖の日本海に展開するのです。あとの2隻は予備とします。この構想は、日米同盟強化の枠組みの中でスムーズに進めやすいでしょう。BMD艦とBMD艦ではないイージス艦2隻ずつを借り受け、旧型の2隻にBMD能力を備えるための改修を日本側が行うという考えも成り立ちます。

運用に当たる人員は、米海軍の現役に頼るのではなく、その目的のためのPMC(民間軍事会社)を米国政府の承認のもとに設立するか、既存のPMCにBMD艦運用のための部門を新設し、米海軍の経験者を募るのです。そして、艦長など指揮命令系統の要員以外はPMCで補います。このようにすれば、常時2隻を秋田県と山口県沖に展開することも可能になりますし、人員不足に頭を抱える米海軍と海上自衛隊へのしわ寄せも防げるのではないかと思います。

イージスアショアが装備するはずだった新型レーダーSPY-7については、イージス艦には米海軍の新型のSPY-6のほうが適しているという見方もあり、その話は代替案を決める中で決めていけばよいと思います。

とにかく、いまそこにある危機がテーマなのです。戦闘中に同盟軍と連携できないようでは、日本国と国民を守ることなどできるはずがありません。そう考えると、政府に切迫感が欠如しているのは隠しようがありません。せっかく政権を手にしたのですから、菅さん、手腕を見せてほしいものです。(小川和久)

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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