理屈優先で役立たず。軍事アナリストが呆れた日本のミサイル防衛案

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防衛省は、配備を断念した「イージス・アショア」の代替策として、新型のイージス艦2隻を建造する案をまとめ、今週中にも閣議で了承される見込みと伝えられています。イージス艦完成は2025年以降になるとのことで「切迫感に欠ける」と呆れるのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、5年もの空白期間への対策が示されないままでは「いまそこにある危機」から国を守ることはできないと、米軍からイージス艦を借り受ける案を運用案も含めて示しています。

切迫感に欠け、無責任なイージス艦建造の議論

読者の皆さんに伺いたいことがあります。皆さんが自衛隊の立場で敵と向き合っていると考えてください。敵は強力な武器を備え、いつ自衛隊に襲いかかるかわからない状況です。しかし、敵の攻撃を防ぐための兵器の到着が遅れていて、なすすべがありません。

近くにいる米軍は、敵の攻撃に対処できるだけの兵器もあり、少し余裕もあるようです。そんなとき、友軍である米軍に兵器の提供を求めることは、別におかしなことではありません。立場が逆なら、米軍は自衛隊に同じことを要請してくるでしょう。これが、「いまそこにある危機」と向き合っているときの基本姿勢です。

翻って、いま日本で行われている議論はなんと切迫感に欠け、無責任なことでしょうか。北朝鮮、中国などの弾道ミサイルを撃破するための地上配備型イージス・アショアが白紙撤回されたあと、延々と議論をして「イージス・システム搭載艦」2隻の建造を決めました。これは2025年以降に実戦配備される予定だそうです。しかし、何か欠けていはしませんか。

北朝鮮や中国が日本に本格的な侵攻を図ることは、その能力から見て可能性はゼロに近いのですが、特に北朝鮮の弾道ミサイルは場合によっては発射される可能性がある「いまそこにある危機」なのです。誤って発射される場合もあるでしょう。それは今日かも知れないし、明日かも知れません。ミサイル防衛能力を整備するのに、新造するイージス艦2隻が実戦配備されるのをノンビリと待っているわけにはいかないのです。

ここに「戦っている国」の常識を当てはめると、友軍である米軍に救援を求めるのは当然でしょう。恥ずかしいことでも何でもありません。具体的には、米軍が89隻備えているイージス艦のうち弾道ミサイル防衛能力を備えた39隻から2隻を借り、秋田県と山口県の沖合に配備するのです。もちろん、財政的には日本が負担しますし、周辺の警備は海上自衛隊の大湊、舞鶴、佐世保の各地方隊から護衛艦を出して行います。

米軍であっても人員面の余裕は限られますから、これについては米国政府と協議のうえ、イージス艦勤務経験者を集めたPMC(民間軍事会社)を米国内に設立して日本側が財政面を負担し、艦長など一部の幹部を除いてはPMCの人間を2隻のイージス艦に配置するのです。同僚の西恭之静岡県立大学特任准教授によれば、米海軍では補助艦艇を民間人で運用している例もあるそうですから、不可能なことではありません。

これで新型のイージス艦が就役するまで、日本はミサイル防衛能力を一定の水準で維持できることになります。北朝鮮や中国、ロシアに弾道ミサイルを発射しても無駄だと思わせる、つまり日本が抑止力を備えるためには、「いまそこにある危機」と向き合ううえで「戦っている国」に発想を転換する必要があるのです。

政府や自民党国防族の議論は、まったく実戦を意識していない「畳の上の水練」で、危機感や切迫感を欠いています。政治家や官僚としてメシを食っている友人・知人の顔を思い浮かべながら、これだけはあえて言っておきたいと思います。都合のよい議論に持っていきたい政治家や官僚から、またまた「小川を排除しろ」と言われるのはわかっているのですが、国難を見過ごすことはできません。(小川和久)

image by:Hachi888 / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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