国内外で注目され始めた、ビートたけしへの提供曲「CITY BIRD」(シティーバード)
滝沢は名盤『レオニズの彼方に』(1978)で28歳という遅咲きのデビューを飾った後、同年にアルバムからのシングルカット『最終バス』、1980年にセカンドシングル『マイアミ・ドリーミング』、そして1982年のサードシングル『サンデーパーク』を最後にソロシンガーとしての活動を終えた。シンガー・ソングライターとしては、たった1枚のアルバムとシングル盤3枚しか発表していないことになる。
だが、ソロ活動と前後して1977年頃より、錚々たるアーティストたちに曲を提供する「作曲家」としての活動を開始している。滝沢が亡くなるまでの間に発表した楽曲は、現在分かっているだけで100曲を超える。
そんな数多くの作品の中でも、名曲の誉れ高い一曲が、1982年にビートたけしへ提供した「CITY BIRD」(シティーバード)だ。
たけしの哀愁漂うヴォーカルが魅力のブルース・ナンバー
ビートたけしは、前年からの漫才ブームとCX系「オレたちひょうきん族」の人気で大忙しの1982年6月21日に、ファーストアルバム『おれに歌わせろ』を発売。その中の一曲として滝沢から提供されたのが、東京を舞台にしたブルース・ナンバー「CITY BIRD」である。

ビートたけしのファーストアルバム『おれに歌わせろ』(1982)
作詞は、矢沢永吉「時間よ止まれ」や「宇宙刑事ギャバン」主題歌などを手掛けた、作詞家の山川啓介(2017年に他界)と滝沢の共作。
アレンジは、「〜ひょうきん族」のEDテーマ曲だったEPOの『DOWN TOWN』(シュガー・ベイブのカバー曲)の編曲を林哲司とともに担当して1980年に編曲家デビューした清水信之である。

EPOのデビューアルバム『DOWN TOWN』(1980)
まずは、ビートたけしの歌う滝沢作品「CITY BIRD」をお聴きいただきたい。たけしにしか醸し出すことのできない、哀愁と郷愁とがあふれる味わい深い傑作だ。
● ビートたけし/CITY BIRD(1982)
作詞:滝沢洋一・山川啓介
作曲:滝沢洋一
編曲:清水信之
アルバム『おれに歌わせろ』(1982)所収
実は近年、たけしが歌唱する「CITY BIRD」の評価が国内外でじわじわと高まってきている。
音楽ライター、ミュージシャン、音楽ファンが絶賛する「CITY BIRD」
青春エッセイ『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』(晶文社)の著者として知られる、編集者・音楽ライターの松永良平(まつなが・りょうへい)氏は1月、たけしの「CITY BIRD」をツイッターで以下のように評した。
ビートたけし「CITY BIRD」をアルファ50周年サイト「ALFA50」でプレイリスト作るときにいただいた出版管理楽曲リストで見つけて驚いた。作者の滝沢洋一が作家契約していたからか。しかし、この曲でのたけしの歌唱はすばらしい。日本のイアン・デュリーとなる道もあったとすら。https://t.co/je4h5WwrnF
— 松永良平 Ryohei Matsunaga (@emuaarubeeque) January 24, 2021
「CITY BIRD」を熱唱するたけしの歌唱力を、「Hit Me With Your Rhythm Stick」のヒットで知られる英国のニュー・ウェイヴ、ファンクのロックミュージシャン「イアン・デューリー」の日本版となる道もあったのでは、と絶賛している。松永氏は続ける。
でもね、たけしの歌う「CITY BIRD」の作者である滝沢洋一といえば、シティポップ超傑作「レオニズの彼方に」のひとなんだから!https://t.co/9SHpRdl23x
— 松永良平 Ryohei Matsunaga (@emuaarubeeque) January 24, 2021
この「CITY BIRD」を、「お気に入り10選」に入れたミュージシャンもいる。ロックバンド「サニーデイ・サービス」のベーシスト田中貴(たなか・たかし)は、HMV&BOOKS onlineの『サニーデイ・サービス 田中貴のお気に入り音源10選』という記事の中で、たけしの「CITY BIRD」を紹介している。
ボーカルの圧倒的な存在感と、清水信之さんの感動的なアレンジ。この曲を聴いていた中学生の頃、夢見た東京の街は四谷三丁目だった。僕の中のアーバン・ブルーズ。(出典:HMV&BOOKS online『サニーデイ・サービス 田中貴のお気に入り音源10選』)
ミュージシャンの耳をも魅了するビートたけしの「CITY BIRD」は、発表から40年が経とうとする今も、色褪せぬ輝きを放っている。
「CITY BIRD」に心を動かされたのは、もちろん音楽関係者だけではない。この曲は日本の音楽ファンからも、カラオケやライブで人気を博していたようだ。また、たけしが自身のライブで「CITY BIRD」をピアノ弾き語りで歌唱していたことがファンのSNSへの投稿で判明している。
たけし師匠も良い曲たくさん出してますね
OK!マリアンヌ、BIGな気分で唄わせろ、浅草キッド、たかをくくろうか、I’ll be back again…。
中でも個人的に一番好きなのは、師匠自らピアノの猛特訓をし、コンサートで弾き語りで歌ったバラード・CITY BIRD。 https://t.co/siKYCmUvh8— わんこ@Rockするぜよ! (@red_core_bakuro) October 24, 2020
9/5ライブ終演後の客出しの時のBGMに、
たけしさんが歌ってた ♪CITY BIRD が流れたらなぁ~と、個人的にリクエストします。
あのせつない歌を、終演後に聴けたら、さらにぐっときます。 pic.twitter.com/aW79w6AXum— 大倉野のりゆき (@nori885) July 5, 2017
人生の街角を迷い続けて来たけど 忘れてた あの人は 今でも 俺を憶えているか ・・・昨夜から、たけしさんの「City Bird」な気分です
— 佳紀 (@yoshiki_ymd) December 4, 2010
「CITY BIRD」の評価は、さらにその翼を大きく伸ばして海を超えた。この曲は意外にも日本のお隣、中国で人気が拡がり始めている。
海外にも飛び火。中国で人気の「CITY BIRD(城市之鸟)」
近年、中国版ツイッター「微博」(ウェイボー)では、たけしが歌う「CITY BIRD」の音声ファイルが多数投稿され、音楽配信サイト「网易云音乐」には、この曲に数百ものコメントがつけられている。
また、微博に投稿された「北野武电影里的孤独感混剪」(北野武映画における孤独感Mix)という動画には、全編にわたって「CITY BIRD」が使用されており、再生回数も上昇中。
投稿されたコメントは「この曲好き」「寂しい時にこの曲を聞きます」「本当にいい音楽だと思いませんか?」と、どれも好意的だ。
また上海発の動画メディア「一条Yit」は2018年7月、たけしへの単独インタビュー動画をYouTubeに公開。動画のエンディングBGMに「CITY BIRD」を使用した。その中で、たけし本人へ同曲を流すことを説明すると、たけし自身が「CITY BIRD」について語り出す場面が登場する。
「…あ、CITY BIRD? すごい恥ずかしいですね。それ、すごい下手なんだもん(笑)。非常に恥ずかしい、汗が出てくる(笑)。(今も歌いますか?)たまにライブで歌を歌うけど、この歌はほとんど歌ったことないよね。難しくて(笑)」(出典:「71歲的北野武,活出了牛逼的一生」上海発動画チャンネル「一条Yit」YouTubeより)
音楽関係者らに絶賛される一方で、たけし自身は「下手で恥ずかしい」と謙遜する。
この動画についても、「北野武さんのインタビュー直後のBGMがこの曲で、あっという間に魅了されてしまいました」と、たけし映画と彼の人生とを重ね合わせたかような歌詞や映像に、国内外から称賛の声が多く寄せられている。
“人生の 街角を
迷い続けて 来たけど
少年の 昔に見た
夢だけは 今も心に燃える
いつか 時は流れ
街並も 変わったけど
まだオレを 呼び続ける
空は 青くまぶしい”
(ビートたけし「CITY BIRD」 作詞:滝沢洋一・山川啓介)
お笑い芸人として修行を積み、漫才コンビ「ツービート」で大ブレイクした後も、事件や事故を経験するなど波瀾万丈の人生を送りながら、監督した映画作品によって「世界の北野」として大きく飛躍した、北野武=ビートたけし。
その活躍を予見するかのような歌詞と、大人の色気漂うブルージーな歌声が、国を超えて多くの人々の心に響いたのかもしれない。