世界的エンジニアが明かす、今5G端末に替えても変化を実感できぬ訳

 

5G基地局投資、2023年度には1000億円の大台を突破へ」という記事によると、日本の通信事業者はこれから数年間に渡って、数千億円を投じて5Gの基地局を増やす計画を持っていますが、それはつまり、さまざまな場所で5Gの恩恵を受けることが出来るのは数年後、ということを意味します。

また、たとえ5Gの基地局が近くにあったとしても、実際に10Gbpsのスピードで何かをダウンロードすることは出来るような設計にはなっていません。ビジネスとして5Gサービスを提供する以上、通信事業者は、端末一つあたりのスピードに上限を設けるし、基地局に接続している端末の数に応じて、スピードを調整する必要があります。

通信事業者は、まずは、5Gによるメリットが出やすい、人がたくさん集まる野球場やサッカースタジアムなどに向けて基地局を優先して設置するため、消費者は、まずは、そんな場所に行った時にだけ、5G端末を持っていた方がネット繋がりやすい、という状況を経験することになります。一部の消費者にとっては、それだけで5G端末に切り替える理由になるでしょう。

5Gの方が基地局一つあたりが送受信出来る容量が増えるため、データ通信量(いわゆる「ギガ」)の上限を増やすことも理論的には可能ですが、5Gの基地局が十分にない段階では、「5Gの基地局に接続出来た時だけ、上限が増える」ような、消費者には理解しにくいサービスになってしまう可能性があるので注意が必要です。

低遅延の方は、無線通信の遅延をいくら減らしたところで、インターネット側の遅延はゼロにならない(数十ms)ので、ほとんどのケースで、消費者がメリットを実感出来ることはありません。直接的なメリットを感じられるのは、遅延の大きさがユーザー体験に大きな影響を与える、Google StudiaやMicrosoft xClodのようなストリーミング型のゲームに限定されます。

通信事業者は、低遅延により、いままで不可能だったサービスが可能になると宣伝していますが、低遅延のメリットを本格的に生かすためには、インターネットを介さずに、基地局とサーバーを専用回線で繋ぐ必要があり、通常のインターネット・サービス事業者には縁のない話です。

低遅延のメリットが十分に生かせるのは、工場や配送センターなどの特定の場所で、複数のロボットを5Gで専用の基地局に繋ぎ(ローカル5Gと呼びます)、そこに直結したサーバーから全てのロボットをリモートで自動操縦する、ような特殊なケースです。

5Gのプロモーションビデオの中に、自動車を5Gでリモートに自動運転するというデモを見たことがありますが、これを一般道で実現するためには、莫大な数の基地局が必要だし、通信量も莫大になってしまうので、全く現実的ではありません。

特に、カメラから取得した映像を5G経由でサーバーに送り、そこで画像・物体認識をして、ハンドルやブレーキをリモートで制御する、というアーキテクチャは、通信量が多すぎて(工場内の自動車やロボットの自動操縦など、特殊な場合を除いて)全く実用的ではありません。5Gの基地局がどんなに増えようと、自動運転の主流は、(端末側で画像・物体認識などを行う)エッジ・コンピューティングです。

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