報復が報復を呼ぶ悪循環。9.11と湾岸戦争を招いた米ブッシュ父子の罪と罰

 

チャルマーズ・ジョンソンの予言

その通りで、米国はなぜ自分らが9.11のような目に遭うのか「何も分かっていなかった」が故に、この20年間を通じてますます自分自身を――自分と世界との関係がどうあるべきかを、見失い続け、その結果、半狂乱のような前大統領や軽度認知障害が疑われる現大統領を頂いてオロオロすることになったのである。

故チャルマーズ・ジョンソン=カリフォルニア大学教授は、9.11の2年前に『アメリカ帝国への報復』(集英社、00年刊)と題した予言の書を著し、次のように述べていた。

▼冷戦の終結後、アメリカは軍備を縮小するどころか、無謀にも帝国として世界に君臨する道を選んだ。アメリカのこうした政策は各国の怒りを買っており、21世紀にはとりわけアジアの国々から経済的・政治的な報復を受けると考えられる。

▼報復(ブローバック)という言葉の意味は、アメリカの国民に秘密にされている政策が意図せぬ結果をもたらすことである。「テロリスト」や「麻薬王」や「ならず者国家」や「不法な武器商人」などの有害な行為が毎日のように報道されているが、それらはかつてのアメリカの活動のブローバック、すなわちアメリカの帝国主義的政策に対する報復なのである。

▼帝国の報復は、報復が報復を呼ぶ破滅的な悪循環に陥りかねない。それをよく示す例は、98年8月7日にナイロビとダルエスサラームで起きた米大使館爆破事件に対する政府の反応である。米政府のスポークスマンは、大使館爆破の首謀者とされるビン・ラーディンがかつては米国の援助を受けていた事実を無視している。80年代にソ連に対抗するアフガニスタンの反乱軍を米国が組織したとき、ビン・ラーディンは重要な役割を果たした。彼が米国に反旗をひるがえしたのは91年になってからのことだ。湾岸戦争中も終戦後も米軍がサウジアラビアに駐留しているのは、自分の宗教上の心情に反すると、彼は考えたのである。

▼従って、アフリカの米大使館に対する攻撃は、本当にビン・ラーディンが関与していたとすれば、いわれのないテロリズムではなく、報復の一例である。米国は、大使館爆破への報復としてスーダンやアフガニスタンを爆撃するのでなく、サウジアラビアに駐留する大規模かつ挑発的な米軍の削減または撤退を検討すべきだったのである。

▼冷戦終結後の10年間に積み上げられてきた証拠からすると、米国はその外交政策を推進するにあたって、外交交渉、経済援助、国際法、多国間の制度的慣行などに頼ることをおおむね放棄し、まず例外なしに威嚇、軍事力、金融操作などに訴えるようになっている。

▼米国の政府関係者とメディアは、イラクや北朝鮮、そして今はタリバンについてしきりに「ならず者国家」呼ばわりをするが、我々は米国自体が果たしてならず者の超大国になっていないかどうかを自問してみる必要がある(INSIDER 2001年10月2日号、『滅びゆくアメリカ帝国』P.49~所収)。

繰り返すが、9.11が起きる2年前に書かれた本である。米国民は、自国の政府が戦後長い間、世界中で暴力を用い我が物顔で振る舞ってきた事実を知らないから、アフリカにある米大使館やニューヨークのビルが爆破されたりすれば激昂し逆上する。ブッシュ子はその激情のうねりに乗って、やらなくてもいい戦争をやってしまって米国のみならず世界にとんでもない被害を与えたのだったが、その下地を作った主犯は実はブッシュ父で、その時代まで遡らないとジョンソン教授の言う意味はわからないかもしれない。

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